第11話 陽菜を命の危険にさらすことはできない
トラックに引きずられて路側帯のブロックに頭を打ち付けて意識が途絶えた……と思った次の瞬間、ゴボッ……ガボボゲゲッ……口から思いっきり水を飲み込んでしまう。
水!? 一瞬で意識が覚醒する。水泳部の練習中に水を飲み込むこともあるがそれとは全然違う量、そして喉を刺すような冷たさ。
バシャバシャバシャバシャ……すぐそばで激しく水を叩いてもがいてる音がする。
慌てて身体を浮かせようとコントロールし泳ごうとするが冬服の制服がまとわりつくようで体が思うように動かない。体が重い。これはどういう状況だ?
状況はつかめないが自分が夜の川で溺れかけてるのが分かった。冬の川になんで……と思うがとにかく岸に向かって移動するしかない。流れは緩やかだが水量が多くて脚はつかない。
ガハッ……どうにか水面に顔を出し息継ぎをする。その瞬間、俺のすぐそばで暗い水面を叩くように必死でもがいてる陽菜の顔が見えた。
「陽菜!?」
トラックの事故に巻き込まれた陽菜がなぜここにいるのか分からない。分からなくても陽菜が溺れかけているなら俺のすることは決まっている。
「陽菜、暴れるな! 力を抜け!」
タイミングを見ながら陽菜の背後に回り込むようにして左手で陽菜を抱きかかえる。どうにか陽菜を捕まえることが出来た。溺れている人間を助けるときに相手が暴れていては一緒に引きずり込まれて救助者まで危険に陥る。
普通は口で命令してすぐに行動に移せるものではないのに陽菜は脱力してこちらのなすがままになっている。
これなら助かるか……どうにか陽菜を左手で抱えるようにして横泳ぎで泳ぎだそうとするが冬服のままでは泳ぎにくい。それにどんどん下流に流されている。
流れに逆らわず下流に流れながらわずかずつでも岸に近づくように泳ぐ。なぜだろう。いつもならもっと力強く水を蹴るはずの手足が思い通りに動かない。
ぜぇ……はぁ……とにかく二度も陽菜を命の危険にさらすことはできない。「いらないからどっか行け」と言われていても何があっても陽菜を助ける。
そのためだけに重い手足を動かし続け、どうにか護岸に泳ぎ着いて陽菜の体を引きずり上げる。
陽菜は途中から意識がなかったようだ。陽菜が息をしていることを確認して俺の意識はそこで途切れた。
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