第108話 刀剣女士の時代を作って
「大丈夫か藤岡? 今から小烏とそっちに向かうからちょっと待っててくれ。
お前の住んでる所は繁華街の方だから郊外の小烏道場からだと小一時間くらいかかると思う」
「え? 風紀ちゃんと一緒に来るの? それに小烏道場って?」
頭に疑問符がいっぱい生えていそうな藤岡だが今は時間が惜しい。
「後で説明するからとにかく場所を送ってくれ」と電話を切ると更衣室で自分の服に着替えて小烏を連れて道場を後にする。
小烏に関しては袴が黒で道着が白の剣道娘スタイルのままで電車に乗せている。
ちなみに竹刀を一本袋に入れて持たせている。流石に真剣の太刀を持ち歩かせるわけにはいかない。
「なんだか道着のままで電車に乗るのは気恥ずかしいな」
頬を染めながら小烏が言うので
「剣道の大会なんかだと道着に防具を持って竹刀まで担いで移動してるだろ、同じだよ」
と返したが、小さな声で「好きな男と出掛ける時くらい私だってオシャレしたいのだ」と俺に聞こえないようにつぶやいているのが可愛すぎたので聞こえないふりをしてあげた。
俺の顔も赤くなってるのでばれてしまったかもしれないが。
「ここが藤岡の家か……すごいな」
藤岡の家はまさかの繁華街の駅前の一等地の一番背が高いマンションだった。
アイツっていいとこのお嬢さんだったの?
インターホンでオートロックを外してもらい藤岡の部屋までエレベーターに乗る。
部屋についたら藤岡が少し不貞腐れた顔で待っていた。
「日曜日に恭っちが遊びに来てくれるって思ったのに…」などと言っているので、この前の昼休みの話をする。
そう、小烏のことをメイクしてあげるって言っていた会話のことだ。
「すまないけど、みおのことを見込んでお願いがある。小烏をカッコよくメイクしてやって欲しい」
小烏の肩を掴んで藤岡の前に突き出す。
「えっ? え~~~~~!?」
大きな声を出す小烏。なんでもやるって言ったんだから覚悟を決めろ!
こっちの世界に来る前の元の世界には刀剣ブームというのあった。刀剣を擬人化男子にしたゲームから爆発的に火が付き刀剣自体まで多くの女性が興味を持った。
こっちの貞操逆転世界に刀剣ブームは起こらなかったようだから小烏を使って自分たちでブームを起こそうというのだ。
そのために淫フルエンサーでメイクが得意な藤岡は欠かせない大切な戦力だ。
さあ、刀剣女士の時代を作って小烏道場を盛り立ててやろう。
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ちょっとした小話
「なぁみお、このマンションってお前の両親のマンションなの? なんかお前だけで住んでるみたいに見えるんだけど」
「ん、一人暮らしだよ。だから恭っちならいつでもこの部屋を好きに使っていいからね」
「へ? この部屋に一人暮らし? 贅沢すぎない」
「無視すんなし。ここは淫スタグラムで大バズりした年に税金対策で買ったやつだから」
「マジで……」(それはこの世界の多々良恭介がコンプレックス爆発させるわ……)
という会話があったとかなかったとか。