第107話 俺のいうことならなんでもしてくれるか?
小烏に詳しく話を聞くと、今この道場では父親と小烏本人が師範と師範代を務めており門下生は数人程度という事だった。
時代が剣術を求めていないということでどんどん廃れていく道場と諦めがちになっていく父親を小烏は悔しい思いで見てきたらしい。
そんな時に教室で俺を見て、この男なら小烏道場に新たな風を吹き込んでくれるのではないかと感じたのだそうだ。
確かにこの貞操逆転世界の男性は積極性や精神的な強さにおいて前の世界より劣る人も多いみたいだ。それは女性を求める狩人としての本能《性欲》が失われている結果、前に向かう力が不足するからかもしれない。
「いや、それだけじゃなくてお前のことは好ましいと思っているのだぞ」
と何故か取り繕うようなことを小烏が言ってくれるが今は道場の生存戦略を考えよう。
俺は戦略としてまず小烏道場の知名度を高めて剣術を知ってもらう機会を増やすこと、剣術を学ぶことによって実用的に役に立つことの二点をアピールすることを小烏に提案した。
「しかし、小烏道場の知名度を高めるといってもどうすればいいのだ? うちの父もすでに何年も前からほーむぺーじというのを作って集客しようとしているが、そこから来た門下生などいないのだが……」
小烏は少し懐疑的なようだが、俺のいうことだから従おうといった感じ。
「小烏、俺のいうことならなんでもしてくれるか? 道場再建のために自分を懸けることが出来るか?」
真剣な目で見つめながら小烏に問う。覚悟はあるかと。
「ああ、多々良のいうことになら何だって従おう。お前のことを信じると決めたんだ」
男前な顔で返事をする小烏だが何故か頬が赤くなっていてめちゃくちゃ可愛い。なんでだ?
「分かった。じゃあまずはアイツが味方になってくれるか……アイツが味方になってくれれば勝率は何倍にも跳ね上がる。電話をしてみるから待っててくれ」
俺はスマホを操作して一人のクラスメイトの番号を呼び出す。タップして通話。
プププ プププ…プルルルル…プルルルル、ガチャ
ツーコールで俺からの電話を取ってくれた。
「みおか? 日曜日にすまない。今時間取れるか?」
『え? 恭っち? どうしたの日曜日に電話なんて。時間ならあるけど……』
「じゃあ、今からお前の家に行くから住所を位置情報でスマホに送ってくれ」
ガタッ……ドサッドタタタタッ!
ん、スマホの向こうで大きな音がしたけど藤岡のやつ大丈夫か?
みおの携帯はソフトバンクのiPhone14。
かけたら「プププ プププ」って音がします。
小烏さんはカタカナ英語でさえも棒読みです。