第105話 太刀と日本刀の区別はつくのか?
道場に入る前に小烏に更衣室で道着に着替えてくるように言われる。剣道着と袴のセット。
更衣室で着ようとするが、いまいち帯と紐の締め方が分からない。後で小烏に聞けばいいかと思いながらとりあえずネットでググって着終わる。
あ、今回はちゃんと道着の下にTシャツ着てるから! いつまでも同じ失敗を繰り返すほど俺もバカじゃないからね。
きちんと着れているのか分からないがこういう道着を着ると気持ちがピシッと引き締まるものらしい。
小烏がいつも凛々しい理由はいつもこういう空気の中で生活しているからなのかなと思った。
道場は板張りで一辺が30歩分くらいありそうな正方形をしてて、入口から見て奥に床の間のようになっていて掛け軸が掛かっている。「剣は人を殺める道具にあらず、人を活かす道なり」と揮毫されていた。
その掛け軸のすぐ前に小烏が正座で座っているので作法などよく分かっていない俺としては小烏の正面2mほどのところで「ここでいいのか?」と声をかけてから正座させて貰った。板の間の正座って地味に痛い。
小烏が平気で座っているのは慣れているからかコツがあるのか?
「今日は本当によく来てくれた。多々良に我が小烏道場を継いでほしいと言ったがあながち冗談ではないのだ。
今の時代に剣道場の運営は非常に厳しい。この道場の先行きも非常に不透明になっているのだ。
私はどうにかこのまま道場を継いで小烏流を残せればと思っているのだがな」
正座してる小烏の左には日本刀(?)が一振り置かれていて、黒光りする鞘が艶めいている。
「小烏道場は塚原卜伝を開祖とする鹿島新當流の流れを汲んでいて、究極的には失伝している一ノ太刀、つまり自分なりの必勝の技を身に着けて、剣で人を生かすことを目標としている。
もちろん私も修行中の身で偉そうなことを言える立場ではないがな」
小烏が言う。塚原卜伝って言うと宮本武蔵が切りかかって来たのを鍋の蓋で防いだっていう剣豪のことだったかな。確認してみる。
「ああ、それは全くのでたらめ、作り話だな。そもそもその二人は生きていた時期が違うから出会う事すらなかっただろう」
へぇ……そうなのか。小烏の答えに感心する。
「そしてこれがこの小烏道場に伝わる太刀で……っと、多々良は太刀と日本刀の区別はつくのか?」
左手で刀の鞘を握り、横に握って俺の方に見せるために差し出してくる小烏に対して俺は答える。
「ああ、太刀は腰に佩くときに刃を下に向けて、刀は刃を上にして帯びるのが基本って聞いたことがある。あと時代が違うんじゃなかったか?」
俺の答えに満足そうに小烏が頷く。
「意外と詳しいじゃないか。多々良とこういう話が出来て私は嬉しいぞ。そしてこの太刀はちょっと変わったつくりをしていて鋒両刃造もっと言うと有名な小烏丸という刀と同じことから小烏造とも呼ばれるつくりになっている」
小烏が鞘から刀身を抜くと、刀身の先が両刃になっている不思議な刀身だった。
分かりにくかったら読み飛ばしても大丈夫!
覚えておいて欲しいのは「小烏流は活人剣」「伝わってる刀(太刀)は先っぽが両刃の変わり種」って二点です。
※両刀じゃないよ、両刃だよ!
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