第104話 ひ~よりちゃんっ! あ~そびましょ~!!
日曜日も朝から自転車の陽菜と一緒にランニング。サイクルコンピューターで時速15㎞になったら教えてくれと伝えて前を走り、陽菜が教えてくれることで体に時速15㎞ペースを入れていく。
今日も桜公園でストレッチしてから折り返して家まで戻って陽菜と別れた。
その後俺は電車に揺られて移動している。時刻は朝の9時半。
目的地は6駅ほど離れた小烏道場だ。小烏は中学までは学区が違ったので別の中学に通っていた。
小烏の家はうちよりももうちょっと田舎寄りの地域で道場を開いているそうで、相談があるから一度道場まで来てもらえないだろうかと言われてテストが終了した最初の日曜日である今日向かうことになったのだ。
そして今俺は小烏道場の門の前に立っている。立派な門構えに「小烏道場」と大きな文字で書かれた看板がつけてある。
う~ん……訪ねてきたのはいいがここはやっぱり第一声は「頼も~!」だろうか?
まあ、今どきらしくちゃんとチャイムとインターホンが取り付けてあるからこれを押せばいいんだろうが小烏の予想もしていないことをしてやりたいというイタズラ心を押さえることが出来ない。
キョロキョロと左右を見て近くに人がいないことを確認すると、俺に出せる全力の大声で
「ひ~よりちゃんっ! あ~そびましょ~!!」
と叫んだ。ドタドタドタドタ……ガタンッ、ドカ、ガラガラガラ!
ものすごい勢いで走ってきた誰かがドアの閂を外して扉を開く。
真っ赤な顔をした小烏がそこにはいた。
「よっ、遊びに来たぞ。お待たせ小烏」
俺は片手をあげて挨拶する。
「よ、良く来てくれたな。多々良が来るのを待っていたぞ」
うん、今日も凛々しい小烏はカッコいい。
顔が真っ赤でなければもっとカッコよかったと思うぞ。
「とにかく今日はよく来てくれた。うちの小烏道場の案内と剣道について知って貰ってその後相談をさせてもらえれば嬉しいと思う」
友達の頼みなら断るはずがない。
郊外ならではの広い敷地に踏み入れる。確かにこの剣道場を今の時代に維持していくのは想像以上に大変だろう。小烏のプロポーズはこの道場のことを想って先走ったのだということがよく分かるような立派さだった。
やっと小烏ちゃんのターン。いきなりプロポーズしちゃった裏事情を感じてもらえると嬉しい。