第103話 こっちの世界の女の子として(陽菜視点)
「じゃあ帰ろうか。陽菜の家でサイクルコンピューターを取り付けたいし」
と恭介くんが言う。この後ももうちょっと家で一緒にいられるらしい。
だけど今日一日ずっとエスコートがうまくできないなぁって考えていた私は思わず
「うん、今日は帰るんだ……うん、帰ろう」と答えてしまった。
こっちの世界で初めてのデートは散々だなぁ……と思いながら電車に乗ったら恭介くんが「今日は凄く楽しかった。また来よう」と言ってくれたので本当に嬉しかった。
私みたいにこっちの世界の女の子としてはダメダメでも許してくれるどころかまた次のチャンスを貰える。
もともとこっちの世界の女の子だったらすごく嬉しいんだろうなって思った。恭介くんが女の子にモテる理由がまた一つ分かった気がした。
家についたら恭介くんが工具を持ってきて自転車のスポークに付属の磁石を取り付けて、タイヤのすぐそばのフロントフォークにつけたセンサーを固定していた。コードを取りまわしてハンドルバーの横棒部分にサイクルコンピューターの本体を取り付けていた。
前輪をくるくる回してメーターが動くのを確認している。後ろからのぞき込むと前輪が回るのに合わせて数字が変化していた。
「ほら、陽菜。そこら辺を一周回ってきてみなよ。この画面に出てる数字がその時の自転車の速度だから」
恭介くんが言うので自転車を漕いで家の周りを一周してみる。
本当にスピードメーターになっていて、ペダルを強く踏むと数字が上がるのがちょっと面白かった。
明日から恭介くんと走る時に並走すれば恭介くんが走っている速度が分かると思うとちょっと楽しみ。
「これすごいよ、恭介くん。びゅーって走ったら数字が上がってこれ楽しいね」と伝えると「明日から走ってる時にたまに時速を教えて欲しい」と頼まれた。
恭介くんが自転車を弄り終えて道具を道具箱に仕舞って家に帰る。うちの家から見える恭介くんの家の玄関。
見送っているとドアを開けたところで振り返って手を振ってくれるので振り返す。
恭介くんが家の中に向き直った瞬間、振っていた手を顔の前で構えて指を銃の形にする。
「えいっ、パーン!」
ゾンビを撃つのは頭だったけど恭介くんは胸のハートを狙った。いつか本当に撃ち抜ける日が来ればいいなと思いながら。
この貞操逆転世界のデートは女性リードで男性を楽しませるためのものらしいです。
貞操逆転世界のデートの裏側としてまとめようと思いましたが、陽菜は自然体でいれば恭介に喜ばれるんでへこむ必要なんて全くないんですけどね。
明日から新章突入です。