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刹那の穹

これから都度思い付いた話をちょこちょこ投稿するかもしれないです。基本的には好きに使っていただいて構いませんが。もしこの話を使って声当てや作品など出来たら教えてくれると嬉しいです!見に行きます!

 まるで雨の様な銃弾の嵐が真下から降ってくる。機体を掠める銃弾に恐怖を憶えながら敵国の領空を飛ぶ。

 窮地の友軍の為に兵と食糧の補充をしに行き、重傷患者や戦死し回収出来た友軍を乗せて帰還する予定だったが敵国の展開速度が予想を上回り、迎撃を受けている。

 もう何度も被弾し操縦桿から伝わる感触から墜落寸前なのが分かるが止まるわけにも落ちるわけにもいかない。


「管制塔!聞こえますか…!…くそっ!」


 聞こえない事は分かっていても望みを掛けて無線を取り声をかけるが返答はない。多分どこかで無線の重要部分が被弾しているのだろう。


「管制塔……頼む…反応してくれ…っ!」


 何かの間違いでもいい、一瞬でもいい。正直このままこの機体で自国まで帰れるとは思わない。だからこそ現状を伝える方法が欲しい。このままでは我が国は敗戦が濃厚だ。

 下からの対空兵器の嵐が増す。この機体が爆撃機を改装した輸送機の為、傍からみれば爆撃機に見えるのも攻撃が増す一要因なのだろうがそこまで意識は回らない。


「…ぐっ…!」


 機体が一層揺れる、また被弾したのだろう。握る操縦桿から左翼の方が被弾した感触が伝わる、左翼のエンジンはほぼ動いてないのだろう。

 このまま回避行動をこの機体で取れば生存確率は上がるかもしれないが乗っている患者や戦死者で阿鼻叫喚となるだろう。機体に穴が空いている感触も伝わっているので何人かは機体の外に投げ出されるだろう。

 だが生存と報告、仲間を助けるのを天秤にかけた時やはり振れたのは…”生存”…であった。


「……すまない…」


 伝わりはしない。もう機内に伝わる無線は幾度となる被弾により機能していない。乗せるときベルトなどで身体を固定出来ない者達が沢山いたのを覚えている。彼らは確実に助からないだろう、それに彼らが機内を飛び交う事により死傷する者達も出るだろう。だが…


「…こちら、回避行動を開始する…」


 伝わらないが機内への無線を手に取り伝える素振りをする。これは免罪だ、これから死にゆく友軍への…

 操縦桿を命一杯引き機体の頭を上へ向け一気に落とす、機体をロールさせながら対空兵器から飛ぶ銃弾の嵐を回避していく。何度か繰り返して対空域を抜けていく。機体後方が重くなる感触が伝わるがここで気にしては助かる者も助からないのは理解しているので頭の隅から追い出す。


「…こ…ら……制…う…。応…」


 その瞬間今まで反応が無かった無線が反応した。


「管制塔!こちらB-1補給機!敵軍からの対空兵器による被弾により当機は損傷!敵軍の展開速度を見誤った!」


 早口で管制塔に伝える。もしかすると先程の地域はジャミングされていたのかもしれないし先程のロールでたまたま配線が繋がったのかもしれない。しかしこのチャンスはのがせない。


「こちら管制塔。ノイズが酷い。もう一度願う。」


「すまない。こちらB-1補給機、当機は対空兵器により被弾。敵軍の展開速度を見誤った。」


「了解。…エディ帰れそうか?」


 この声、この呼び方、彼か。入隊当時からの腐れ縁で近頃結婚した。羨ましいがこっちも年度末には式をあげるので問題ない。何かと競い合ったライバルの様な存在。


「大丈夫さ。なんとしてでも……」


「どうした?」


 唯一生き残っていたレーダーに高速で近付く物体が観測された。警報が一瞬なるが手動で解除する。


「エディ…」


 管制塔の親友から悟ったような声が届く。


「すまない…帰れそうになさそうだ。…シエルに愛していると伝えてくれないか…帰れなくてすまない…とも。」


「…分かった…。確実に伝えよう。」


 自分の声が震える。彼の声が震えるのが無線越しでも伝わる。


「エディ…回避行動は間に合わないか?」


「無理だな。もう一度回避をすれば機体がバラバラになる。いずれにしろ助からないさ。」


「…そうか…今までありがとう。先に行って待っててくれ、そっちに行くときはお前の好きな酒を持っていくさ。」


「あんまり早く来るなよ?追い返すからな?…じゃぁな。オーバー」


 それを最後に無線を切って操縦桿を両手で握り直す。思い残すことがないとは言わないが言えることは言った。最期に話したのが彼でよかった。


 刹那自国の国境付近の上空で爆発が起きた。





































 目を覚ますと少し肌寒い朝の風が吹き込んでいた。とても懐かしい夢を見ていたようだ。あれから70年沢山のことがあったがあの時は本当に死を覚悟した。

 管制塔の彼の方が先に逝ってしまった。私ももう長くはない、彼の好きだった酒を持って行ったら喜んでくれるだろうか?いや馬鹿騒ぎしながら昔話に花を咲かせてそれを肴に二人で飲めるだろう。いつもそうだった、また二人でーーーーーーー

X/旧Twitter ID @rurck3

Xの方では投稿しましたツイートなどはしませんので悪しからず。

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