現代魔人英雄伝
初めて書いた作品なので見苦しい点、荒い点も多いと思います。
あんまり深く考えすぎず楽しく書いていけたらと思ってますのでよろしくお願いします。
今から僕は童貞を卒業する。
夢のようだ、こんな小汚い自分の部屋に女子アナみたいに綺麗な女性と二人。
布団の上、彼女が服を脱ぎ、自分に詰め寄ってくる。
キス、なのか。どうすればいい、舌は出すのか、いつ出せばいい。
自分はいつ服を脱げばいい、どこからさわっ…
そんな事でパニックになりながら彼女を見つめていると、割れたのだ。
彼女の頭から顎先にかけて線が浮き出たかと思うと、次にはぱっくりとその体が線に
そって割れた。
肉体の内側が露わになると同時に、そこから牙の生えた肉の塊が姿を現しこちらに近づいてくる。
なんだこれ、と考えることもできず僕はこの異常な状況を目でとらえ続けることしかできなかった。
セックスとはどれだけ気持ちいいものなのだろうか。
このクソ溜めのような人生が無意味に朽ちていく前にそれだけでも知りたい。
夢を思い描いて一人、僕はこの街にやってきた。
成功する、そんな漠然とした思いだけを根拠のない自信と共に引っ提げてここにやってきた。
だがこの街で成功できる者はほんの一握りで、後の有象無象はこの街に飲み込まれ自分を見失っていく。
僕もその一人。
就職にも失敗し、今では最低賃金のコンビニバイトに勤しんでいる。
何故お金を貯めなければならないのかさえ思い出せない程に頭は摩耗し、心も体も疲れ
切っている。
気が付けば20代ももうすぐ終わると考えると何も考える気なんて失せてくる。
自分の事を本当に神だと思っているんじゃないかと勘違いするほど厚かましい客。
おそらく、自分たち店員としか話すことができない孤独な老人達。
夢と現実のはざまでそんな人たちばかりを相手にしていれば誰でも変になるさ。
容姿が優れていれば、コミュニケーション能力があれば、お金さえあれば、
そんな”たられば”ばかりひがむ毎日。
希望…そこまでのたいそうなものではないが、同じバイトの同僚である彼女だけが
ほんの少しだけ自分の心に照らす一筋の光だ。
加藤さん。この辺にある文化大学の学生さんだそうで、可憐で愛嬌もありこんな自分にも
気さくに接してくれる彼女を、ふと目で追ってしまう時がある。
だからといって、何か彼女に行動を起こす気にもならない。最初から無理だと諦めているからだろう。
近いけど遠い存在。
自分と彼女の人生が交わることはない。
いつもの帰り道、ふと思った。
もう終わりでいいか、と。
この世界に生きていける人間は限られている。
自分は生きていくのには向いていない。
死んだらどうなるかなんてわからないけど、
もうこんな一寸先の希望もない人生から解放されたいし楽になりたい。
そんな考えに浸っていた。
一つの考えが浮かんだ。
死ぬまでにセックスをしてみたい。
思えば本当に女性には縁のない人生だった。
風俗で済ませればよかったのかもしれないが、謎のプライドでそういった店で自分の
童貞を捨てるのは恥だと思っていた。
店の良し悪しもわからないが、とりあえず行ってみるか。
でも、こうも思った。
加藤さん、のような素敵な人と恋愛の果てに結ばれてみたい…
帰り道、そんな妄想に浸ろうとした時だった。
「あの」と声を掛けられた。
綺麗な声だった。
その声は流れの止まった排水溝の汚水の如く黒く染まった思考の雲を吹き飛ばし
僕は気が付くとその声の主を両目が捉えていた。
女性だった。
整った顔立ちに綺麗な黒髪、カジュアルな服装には自分にはないオシャレさと清潔さを醸し出している。
そしてその大きな瞳は間違いなく自分を見つめていた。
「な、なんでしょう」と返事をする。
一瞬、人違いではないか、何かの間違いかとも思ったがやはり自分で間違っていないようだ。
そして僕の手を取ってこう囁いてきたのだ。
「あなたの部屋に行ってもいいかしら」
吐息の温もりまで感じるほどの距離でその艶めかしい言葉を聴いた瞬間、
頭だけでなく体までもが反応してしまう。
何故自分なんだ、詐欺とかなにか犯罪の類に巻き込まれるのではないのかという考えが頭をよぎるが、
彼女の手が自分の股間に触れた時、そんな考えは置き去りにして、気が付くと彼女と共に自宅へと向かっていた。
本当は戸惑いも不安もあったが、少しやけになってしまっていたのだろう。
もういいや、こんな異常な事態も受け入れてしまえと。
部屋に入ると彼女は僕の手を引き布団のある部屋へと向かった。
お互いに布団の上に座ると彼女は服を脱ぎ始めこう囁いた、
「しましょ」
彼女の顔が僕に迫る。
そして冒頭に戻る。
彼女の顔が割れ、その中から大きな肉塊がこちらに迫ってくる。
近づいてきたまた肉が割れたかと思うとそこにはおびただしい牙が並んでいた。
“口だ”そう認識した瞬間、その口は勢いよく伸び自分の勃起した局部に食らいついた。
何もかも理解ができないまま、僕はショックで意識がなくなってしまった。
だが、目が覚めるとそこにはいつもの自室の天井が広がっていた。
生きている、そして先ほどの女ももう部屋にはいない。
夢だったのか。
汗でびっしょりとなった額をぬぐいそう思ったが、何かが聴こえる。
微かに、だが、笑い声のようなものが聴こえる。
なんだ、どこからだと思った時、嫌な予感がした。
なぜならその声が聞こえてくる場所は自分の顔の下からだったからだ。
おそるおそる視線を下げてみると、その嫌な予感は的中した
自分の局部に口がついておりニヤリと笑っている。
その口には見覚えのある牙が並んでいた。
そしてそれは勝手に動き出すとこちらに口を向けてこう言った。
「今日からお前の生殖器は俺のもんだ」