48-2 新しい契約開始
「でも、ミシュウさんがいなかったら、今日からどうしたらいいんだろう?」
「ああ、その事もミシュウから聞いてる。ちょっと待ってて」後ろの棚から手帳を取りだすと、挟んであるメモを取りだし「今日からやることに付いて」と読みはじめる。「来月頭に開催される剣道の県大会に向けて練習しろ」
「は?」眉間にしわを寄せて聞き返すと「まずは、県大会で優勝するために練習しろということでしょうね」
「それは頑張りますけど、それとこれって関係ないでしょう?」
「えっと、もし、県大会と今回の契約延長に付いて文句を言ったら、優勝できなかったらその場で契約不履行となり、幸せが一つ消えると言えって言われたけど」
「エエエエエエエエッ! なんですかそれ!」
「まあ、ミシュウの性格は十分理解してると思うけど」
「……ぶっ飛びすぎてませんか?」
「たぶん、何か理由があるんだと思うよ」
「どんなことですか!」
「そこまで説明はできないけど、何の理由もなく突拍子もないことは言わないと思うからね」
「……まあ、それは私もそう思いますけど」
「……ワン」
「エッ? アーモ君、起きた?」千奈津がソファ横のクッションで寝ていたアーモに声を掛けると「フワァ」大欠伸をして立ち上がり、伸びをすると「ワン」と千奈津に向かって一声鳴く。
「ああ、お腹空いたんだ。海鮮丼があるけど、それでいい?」
「か、海鮮丼を食べるんですか?」耳を疑うあやね。
「中身はアモニスチーフだからね」
「それはそうですけど……」クッションの上で首を回すアーモを見る。
千奈津は立ち上がるとキッチンへ行き、冷蔵庫からアーモ用の海鮮丼を取りだすと「わさびは入れる?」
「当然」と言って横長のソファへ移動してくる。
「……アーモチーフ。元の姿に戻るんですよね?」
「当たり前だろう」ソファ横へ来ると、ダックスフンドの姿から人型へ変化してソファに座る。
「……本当にアーモチーフだったんですね」
「誰だと思ったんだ?」千奈津が持ってくる海鮮丼を受け取り、食べはじめる。
「アーモチーフはリエルさんの見送りには行かなかったんですか?」
「行く必要ないだろう。奴は任務で同行するんだから」
「まあ、そうですけど。ミシュウさんは行きましたよね?」
「私が行かせたんだ」
「アーモチーフが? なんでですか?」
「今回の騒動の報告書を書かせるためだ」
「今回の騒動、ですか?」
「そうだ。チィ、みそ汁か澄まし汁はないのか?」
「いつものインスタント味噌汁なら全種類あるけど」
「なら、豆腐と薄揚げのを入れてくれ」
「豆腐と薄揚げね」
「……アーモチーフは和食好きなんですね」
「ここは日本だからな」
「ああ、そういう意味ですか」
「あやねちゃんも何か食べる? お客さんから貰ったラング・ド・シャがあるけど」
「食べます!」
「チィ」
「チーフの分もちゃんとあるよ」
「そうか」