48-1 新しい契約開始
「じゃあ、ネイルのメンテナンスをするから、こっちに座って」ネイルテーブルの椅子を指すと「リエルさんがいつも座ってるところだ」他のお客さんが座っているが、リエルも座っていると思うと、少し嬉しい気持ちが出てくる。
「本当に契約を更新していいの?」向かいに座る千奈津が呆れると「セイジツ君とリエルさんは、別だからいいんです」
「どう別なの?」
「そうですね……現実と理想かな?」
「理想と現実ね……セイジツ君は現実で、リッ君が理想?」
「そうですね。だから、リエルさんは憧れで、セイジツ君は身近な存在、ですね」
「なるほどね。普通はどっちかなんだけど、あやねちゃんは両方持ってるんだ」
「千奈津さんはどうなんですか?」
「私は、理想だけかな」
「リエルさんだけですか?」
「フフッ、まあね」
「付き合ってないんですか?」
「無理無理。住む世界が違いすぎるよ」
「そうなんですか? どう違うんですか?」
「意識が全然違う。彼らは任務でここに来てるからね」
「でも、映画とかで、人間と恋に落ちる話とかあるじゃないですか」
「それこそ映画の中だけだよ。こっちが憧れても、向こうから見たらどう思うか」
「ああ、そうですね。こっちが憧れるのは、向こうが進化した世界に住んでいて、非日常の世界を見せてくれるからですよね」
「そうそう。それこそ映画やアニメの世界で描かれることを体験できるのは、ちょっと優越感だけどね」
「あっ、それ、わかります。そっか、そういうところに引かれるんですね」
「まあね。はい、メンテナンスできたよ」トップコートを塗り終ると「ありがとうございます。なんか、少しキラキラが増えた気がする。絵柄も増えた?」新しいネイルをジッと見る。
「よくわかったね。ミシュウから、グレードアップと人差し指と小指に少しストーンを乗せるよう言われたから、パステルカラーの石を少し乗せたんだ」
「ミシュウさんが? ちゃんと考えてくれてるんですね。なんか嬉しい」
「これからセイジツ君のお見舞い行くの?」
「いえ。お見舞いに行っても大丈夫になったら、桧山君がラインで教えてくれることになってるので」
「そうなんだ。ちょっと心配だね」
「でも、桧山君が状況を教えてくれるから」
「ヘェ。仲良くなったんだね」
「そうですね。先崎君とその一、二、三も入ってグループラインしてるので、会えなくても話ができるから楽しいです」
「フウン、そんな繋がりができてるんだ」
「すっごい大変なことばかり起きたけど、同じ経験したからこそ、仲良くなったところはあります」
「ああ、それって、なんとかっていう現象らしいね。非日常的なことを体験した者同士で、仲間意識が出てくる」
「ああ、そうだと思います。本当に特別な仲間だという思いがあります」
「そうなんだ」