45-2 それぞれの想い
「ちょっと反論していいか?」先崎が桧山を見る。「こいつ、最初は華河さん押しだったんだぜ」
「エッ!」驚くあやね。
「だから、桧山がケガをして剣道大会に出場できなくなって落ち込んでたとき、なんとかしようと思って、コンビニ前で華河さんたちを待ってたんだ」
「先崎……」
「桧山の応援で剣道大会に行ってたことがあったからさ。でも、華河さんたちを連れてきた後、なぜかその一といい仲になってって、ちょっとビックリした」
「あれは……」口ごもるその一。「あれは……私が押し掛けたの……」顔を真っ赤にする。
「エッ?」一斉にその一を見る。
「その一が桧山君にアプローチした、で合ってるか?」その二が確認すると、素直に頷く。
「その一! 俺からアプローチしたと言っていいって言ったじゃねえか!」
「先崎君の話を聞いたらそんな事できないよ! 聞いて。私から付き合ってほしいって桧山君に言ったの! そしたら、先崎の想い人とは付き合えないって言われたの!」
「……桧山」
「その一!」
「じゃあ、どうしたら付き合ってくれるのかって聞いたら、無理だって……俺の親友から、想いを奪うことなんて、できないって……」
「お前……バカじゃねえの?」
「バカだぞ。結局、親友から想い人を奪ったんだからな」
「俺のことなんか、気にしなくていいのに」
「俺が、幼稚園の頃からの親友を裏切る行為に、どれだけの思いで実行したかわかるか!」
「……桧山」
「ごめんなさい! 私が二人の絆を壊してしまったの!」その一が泣きだすので「その一が悪いんじゃないぞ!」桧山と先崎が同時に声を掛ける。
「そうだよ。人を好きになるって、やっぱり前に何か繋がりがあったんだと思う」あやねが話しだす。「その一は桧山君を見て何かを思ったんだと思う。だから、その一が桧山君にアプローチしたって聞いて、正直驚いた。その一がそんな行動に出るなんて思ってもみなかったから。でも、そういう行動に出るくらいの人と会ったんだよね? その一」
「……あやね」
「羨ましい。その一が羨ましいよ。自分の気持ちを相手に伝えようと行動できるなんて、羨ましい」
「私もそう思う」続くその三。「先崎君には、きっと待ってる人が他にいるんだと思う。その人と会ったら、きっと、ああ、この人と会うことになってたんだと思うんだと思う」
「その三」
「今回はすごく勉強させられた」静かに話しだすその二。「私たちなんか、まだまだ人生の何たるかなんて考えたことないけどさ。噂に惑わされたら、自分の大切なものを失ってしまうかもしれないと、実感することができた。そして、信頼できる仲間がいることが、どれだけ大きい存在なのかって、思い知らされた」
「私も、みんながいてくれてどれだけ心強かったか。剣道をはじめて、この学校に来れて、剣道部に入って本当に良かった」
「あやね」涙ぐむその二だが「今年の剣道全国大会まで、あまり日数がないからな」
「どうしていい雰囲気をここで壊すの?」
「現実は厳しいって言うだろう?」
「それは、厳しいじゃなくて、無神経って言うんだよ」