44-2 鏡の中の異次元
セスが一人で歩いていってからしばらく経つが、一向に戻ってくる気配がない。
「この紐、外れないかな」紐を引っ張ってみるが、ちょうど視界に入らないギリギリのところで型結びされているため、結び目が見えない。
「チェッ! こうなったら手探りだ」頭の中がグラグラ揺れているような感覚の中、紐を切って病室へ戻ろうとするが、この紐が何でできているのか、どんな方法で結んだのかわからないが、どうしてもほどけない。
そこへ「あれ、もしかして人間じゃないか?」と背後から声が聞こえた。
振り向くと、人の姿をしてはいるが、瞳や髪の色など、どう見ても人間に見えないスーツ姿の男性が、四人でこちらへ向かって歩いてくる。
「た、助けてください。悪い奴に捕まって逃げられないんです」セイジツが首に巻き付いている紐を見せると「何かやらかしたのか?」
「窃盗の犯人に捕まって、監禁みたいな感じになってるんです」
「それは大変だ。早く助けよう」一名が声を掛けると他の三名がセイジツを取りかこむ。
一方、病室に取り残されたほうは、
「あやね。泣くな。セイジツは大丈夫だよ。きっとあのイケメン、なんてったって? チーフ? が、きっと連れ戻してくれるから」その二がたどたどしく慰めると「セイジツ君、寄生虫に操られてるフリをしてたんだね。桧山君も。そしてその一も」呟くその三が「本当に、本当に心配したんだよ」と言って泣きだす。
「心配かけてごめんな。古い戦法だけど、敵を騙すには味方からって。これが奴を捕まえるラストチャンスだから、全面協力してほしいって、イケメンチーフが言うからさ」桧山が説明を始める。
「私が病室にいたときに、あのチーフがセイジツ君を連れて入って来たんだ」その一が続ける。「まだ目を覚まさない桧山君のところへくると額に丸いスタンプのようなものをペタンと付けたら、五分後くらいだったかな? 桧山君が目を覚ましたんだよ」
「額?」桧山が自分の額を触ると「なにが付いてるか?」先崎に聞く。
「いや、なんも」
「最初は青い丸が付いてたけど、すぐに消えたよ」
「そうなんだ。なんだったんだろう?」ゴシゴシと額を拭く。
「でも、セイジツ君も桧山君も、一週間くらい目を覚まさないだろうって聞いてたけど」
「あやね、誰からそんなこと聞いたんだ?」その二が聞き返す。
「えっと、アーモチーフだったと思う」
「あのイケメンチーフか。まあ原因を知ってそうだからな」
「他にも知ってそうだよ」
「ところであやね。聞きたいことがあるんだけどさ」改めて声を掛けるその二。「ガイドスピリッツって何?」
「ああ、それが、私にもよくわからないんだけど、アーモチーフの説明だと、正統な目標を持って諦めず、常に努力している人のサポートをして、その目標を達成させることを仕事としてる人? 達みたい」