43-3 知っていた
「セイジツ君!」アモニスの横から顔を出すあやね。
「出てくるな!」後ろに下がるよう手で押すと「これ以上騒動を起こさず、セイジツを離せ」
「それは無理ですよ。彼を開放したら、私は捕まってしまいますからね」
「この状況から逃げられると思うのか?」
「もちろん逃げますよ。どんなことをしても」
「そうか。では、こちらも容赦しない」
「……チーフとは戦いたくなかったんですけどね。仕方ないですか」
「私は構わないぞ」
「そうですか。では、と言いたいですが、見たところ頭数が足りないので、まだ何か仕掛けているのでしょう。チーフとサシで勝負できるのであれば考えますが、そうではなさそうなので」後ろにある病室のドアを開けると、セイジツと一緒に出てドアを閉める。
あとを追うアモニスがドアを開けると二人の姿が消えていたので、近くの女性用トイレに行くと、入ってすぐのところにある大きな姿見の鏡に、金粉のようなキラキラ光る粉のようなものが渦巻いていた。
あとから来る先崎と桧山が「セイジツは!」と聞くと「異次元に連れていかれた」
「異次元? あの歪んだ気持ち悪い空間のことですか?」桧山が聞く。
「そうだ。ここから入った」
「じゃあ、追い駆けないと!」鏡の中に入ろうとするので「やめろ。人間が行く場所じゃないことはわかってるだろう」
「でも!」
「心配するな。後は追ってる」
「誰が?」
「いいから、部屋に戻るぞ」アモニスが引き返すので、渋々あとから廊下を歩いていると「なあ桧山、いくら夜中だからって、これだけ騒いでるのに、誰も来ないって変じゃね?」
「ああ、そうだよな。なんでだろう?」
「そういえばお前、寄生されてたんじゃねえのか?」
「そうらしい。よく覚えてないんだけどさ」
「静かにしろと言っただろう。さっさと病室に入れ」
「あ、はい」慌てて部屋に入ると、待っていたあやねたちが椅子に座って待っていた。
「みんな大丈夫か?」アモニスが声を掛けると「アーモチーフ、どうなってるんですか? 罠ってどういうことですか?」あやねが説明を求める。
「黙ってて悪かったな。奴を誘き出すための罠を仕掛けてたんだ」
「あの人、誰ですか?」その二が聞くので「今、その説明をしてる時間がないんだ。私はこれからセイジツを助けに行くから、みんなはこの部屋から出ず、迎えが来るまでジッとしてるんだ」
「いやです! 私も行きます!」あやねが立ち上がるとその二とその三も立ち上がり「俺たちもセイジツを助けに行きます!」先崎と桧山も続くが「足手まといだ」
「でも!」
「気持ちはわかるが、人間が踏み込めるところではないんだ。ここからは私たちの領域。だから、大人しく待ってろ」
「そんな……セイジツ君……」あやねが泣きだすので「あの、セイジツ、大丈夫ですよね?」先崎が確認すると「今は、何とも言えないな」
「そんなこと言わないでくださいよ」
「忠告を守らなかったセイジツが悪い」
「そうですけど」
「とにかく、なんとかするから、大人しく待ってろ」と言い残すと、アモニスが部屋から出ていく。