40-1 まだ終わっていなかった
「人ぞれぞれ引かれる個所は違うから、一概にどれがいいとは言えないけどね」
「リエルさんは、どんな女性が好みなんですか?」
「僕?」
「はい」
「あやねちゃん。前にも言ったけど、リッ君たちは仕事でこっちに来てるから、恋愛対象外だよ」
「千奈津さんはそれで納得したんですか?」
「しない」
「……言ってることがメチャクチャですよ」
三人が駅近くまで戻ってくると、行きにアモニスに声を掛けてきたチャラい兄ちゃんが、今度はリエルを見付けて声を掛けてきた。
「そこのカッコいい外国人のお兄さん。かわいい女性を侍らせていいね!」近寄ってくると肩をたたく。
「なにも用事はないですから、他を当たってください」
「そんなこと言わないで、いい店あるんだ。どう?」
「けっこうです」きっぱり言うと、あやねたちを連れて足早に立ち去る。
「まだ客引きしてるんだ。景気悪いのかな?」後ろを見る千奈津。
「あまり景気に左右されないんじゃないのかな? ああいうお店は」
「そうなんですか?」
「あやねちゃんにはかなり早いから、気にしなくていいよ」
「千奈津さんは、早くないんですか?」
「私は二十代の大人ですから」
「フフッ、そうだね」
「リッ君! なんでそこで笑うの?」
「ああ、ゴメン。深い意味はないから」
その後、座山駅の南北連絡通路を通ってモノレールの高架下まで来ると「じゃあ、チィちゃん。僕はこのままあやねちゃんを自宅まで送っていくから」
「今日はご馳走さまでした。出発前にサロンへ遊びに来てね」
「もちろん。じゃあ、気をつけて」
「あやねちゃん、明日、部活が終わったらサロンへ来てね」
「はい。おやすみなさい」
ここで千奈津と別れると、リエルが座山駅へ向かって歩きだすので「タクシーならこの大通りで拾えますよ」後ろ姿に声を掛けると「ちょっと、一緒に来てほしいところがあるんだ」足を止めて振り返る。
「これからですか?」
「だから、親御さんに電話して、友達の家に泊ると連絡してくれないかな?」
「そんなに時間が掛かるんですか?」
「ちょっと今はわからないんだ」
「そう、なんですか」
「心配しなくていいよ。早く解決した家まで送るから」
「どういうことですか?」
「とにかく、時間がないんだ。電話してもらえるかな?」
「ああ、はい」あやねはカバンから携帯電話を取りだすと母親に電話をかけ、遅いから友達その三の三条の家に泊ると言い、了承を取った。
「じゃあ、急ごう」リエルはポケットから紙切れを取りだすと内容を読み、通りがかったタクシーを停めると「さあ、乗って!」
あやねが慌ててあとから乗り込むと「救急医療病院へお願いします」リエルが行先を告げる。