39 セイジツとの出会い
お店が閉まる午後九時に会計を済ませて外へ出ると、タクシーで帰るという里緒奈を店の前で見送り、また、リエルを真ん中に挟んで、来た道を戻っていく。
「リッ君の今回のミッションも、あとは大詰めを残すだけだね」
「まあね。今回は比較的楽なミッションだったよ」
「比較的楽だった?」
「目標がハッキリしてて、足りないスキルを補うための期間もある。本人もやる気があり、怠けたりしない」
「確かに」
「これから外国へ行くから、大変じゃないですか?」心配になるあやね。
「その点も、ちゃんとカバーしてるよ。ネットでフリートークのチャットをやらせてるから、今はある程度のことは話せるよ」
「リエルさん、さすがです。桧山さん、リエルさんにサポートしてもらえて羨ましい。今度、私もサポートしてください」
「あやねちゃんには、先輩が付いてるじゃないか」
「ミシュウさんとの契約は、延長してもらえたんですけど、どうしようか考え中なんです」
「やっぱり、セイジツ君のことかな?」
「……はい」
「よく考えたほうがいいけど、どうやって彼と会ったの?」
「……そうですね。彼は覚えてないと思いますけど、去年の冬、剣道の練習で遅くなった日に、寒くて暖かいものでも飲もうと、近くのコンビニに寄ったんです。
その時、運悪く停電になって、入り口のドアが開かなくなっちゃったんです。
中にいたのは私を含め、数名のお客さんで、その時の一人がセイジツ君だったんです。
暖房まで止まっちゃって、寒くなってきて、どうしようがと思ってたら、彼がお店の人にお金を渡して、温かいレモンティーを買ってくれたんです。
一つはカイロ代わりに、もう一つは飲んで温まるように。
助けが来るまで、隣に座って温めてくれたんです。
いろんな話をしてくれて、長時間待ってる感じがしなかったんですよ。
そして、救出された後、お礼を言ったら、遅い時間に一人で帰るのは良くないと言って、家の近くまで送ってくれたんです」
「どこかの恋愛漫画に出てくるようなシチュエーションだね。ちょっと羨ましい」
「いい話じゃないか。彼もあやねちゃんのこと、覚えてるだろう?」
「それが、会ってもそんなそぶりなくて、彼にとっては、当たり前のことなのかもしれないです」
「そんなことないよ。劇的な出会いジャン。いいなあ」
「そうだよね。運命の出会いって感じがするけどなあ」
「私も最初はそう思いました。けど……」
「けど、何?」千奈津が先を聞くと「桧山さんのことがあって、私のことなんか、まったく覚えてないんだって思ったら……」
「そっか。そういうことがあったんだ。まあね。気持ちが覚めちゃうのわかるよ。しかも、相手が美人となったらね」千奈津が同情すると「……ハハハッ、そうですよね」
「……ヤバい。乾いた笑いをしてる」