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アーモのネイルサロンへようこそ  作者: 夏八木 瀬莉乃
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5 契約完了

 

 次の日の放課後。

 いつものように剣道の練習を始める。


「あやね、どうしたの? いつもの覇気(はき)がなくてボロボロじゃん。抜け殻みたいに気合がまったく入ってないよ」

「うん、全然集中できない」

「なにかショックなことがあったの?」

「いつもと別人みたいだよ」

 ウルウルウルウル。


「あやね!」

「どうした! あやねを泣かせたものは何だ!」

「私たちが抹消(まっしょう)してあげるから言いな!」

「ちょっと、衝撃的な光景を見ちゃって……」


「どんな光景なんだ?」

「なんでそんな光景を見ることになったんだ?」

「どこで見たんだ?」

「……ありがとう。大丈夫だから」ゴシゴシと涙を拭う。


「あやね、みんなでケーキでも食べに行こうよ。甘いもの食べたら元気になるよ」

「うん、ありがとう。でも、行かなきゃいけないところがあるから」

「こんなときにどこ行くの? 明日でもいいじゃん」

「今日、持ってかなきゃいけないものがあるの。心配かけてごめん」

「どうしても今日じゃないとダメなの?」

「夕方までに持っていく約束してるから」



「何飲む?」

「エ?」

「また紅茶でいい?」

「あ、はい」

「じゃあ、ちょっと待ってて」

「……ここは?」


 ハワイ風の装飾に、一人掛け用のソファと大きな観葉植物。奥の大きな窓の近くに白いネイル用のテーブルが置いてある。


(あのネイルサロンだ。いつの間に来たんだろう?)


「正気に戻った? はい紅茶」千奈津がいつものようにガラスのテーブルにカップを置くと「ありがとう、ございます」

「じゃあ、また正気を失う前に、契約書持ってきた?」

「あ、はい。持ってきました」ナップザックから封筒を取りだすと渡す。


「悩み事はちゃんと書けた?」

「はい。正直に書きました」

「よろしい」封筒から契約書を取りだすと、悩み事欄を読みはじめ「まあ、そうだよね」

「読まれるの、恥ずかしいです」

「日本人は、こういうこと苦手だよね。ちょっと待ってて」


 千奈津が一人掛け用のソファに向かって「ミシュウ、これならいいんじゃない?」声を掛けると、いつの間にか例の金髪女性が座っていて、千奈津が契約書を差しだすと受けとり、悩み事欄を読む。


「最初から正直に書けばいいものを。たったこれだけの文字を書くのに、どれだけ時間をかけるんだ。まったく、遠回りして時間の無駄だ。チィ、ペン」


 手を出すので封筒から専用ケースを出してガラスペンを取りだし、渡すと契約書にサインをして「契約成立だ。今回は料金をサービスしてやれ」ペンと契約書を返す。


「珍しい」千奈津は受け取ると「今回のネイル代はタダでいいって。じゃあ、これからあやねちゃん用のネイルのデザインを考えるから、明日、部活が終わったら真っ直ぐここにきて。彼に会いに行ったらダメだよ」


「どうしてですか!」

「明日会っても、また意識を失ってここに来ることになるからだよ。今日みたいに」

「あ……やっぱりそうだったんですね」

「意識なくて、よくここまで歩いてこれるな、と思うよ」

「ハハハハハ……」(私もそう思う)


「そして、明日から契約の半月が始まるから、頑張ってね」

「明日から?」

「そう。ネイルをした日から半月、十五日だよ」

「わかりました。よろしくお願いします。でも、どうして今回はサービスしてくれるんですか?」

 すると、ソファに座っていた金髪女性が立ち上がり、隣に腰かけてきた。


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