38-3 締めの夕食会
おばちゃんは他の人の注文を厨房に伝えると「お待たせしました。今日は何にする?」
「もちろん、とんかつカレー定食です」リエルが答えると「お嬢ちゃんたちもかい?」
「はい! でも、なんでわかるんですか?」
「今日は淳ちゃんがバイト最後の日だから、皆とんかつカレー定食を注文するんだよ」
「そうなんですか。皆さん、応援してるんですね」
「ここのお客さんたちは、見かけはちょっと怖いけど、気のいい人達だからね」
「わかります」
「じゃあ、注文入れてくるから、ちょっと待っててね」
「とんかつがないなんでこと、ないですよね?」千奈津が心配して聞くと「大丈夫だよ。夕方前になくなりそうだったから、追加してあるよ」
「よかった」
「チィちゃんは、飲めない代わりにたくさん食べるからね」
「私と一緒ですね」
「あやねちゃんほどじゃないよ」
「……どうしてそんな事がわかるんですか?」
「ミシュウが言ってた。あやねの胃袋は、通常の三・五倍はあるなって」
「なんてこと言うんだろう。でも、どうして三・五倍なんだろう?」
「あやねちゃんの友達その二に、叩き切ってもらったら?」
「リッ君。そんなこと言ったら、ミシュウに切られるよ」
「きっと串刺しにされます」
「それはヤダな」
少しするとカレーのいい匂いと、とんかつを揚げている音が聞こえてきて、胃袋が反応する。
「早くください。胃が胃酸で溶けそうです」
「空腹に耐えきれなくて、水を飲み過ぎちゃう」近くの水差しを取る千奈津。
そんな二人を見て、クスクス笑うリエル。
そこから少し待つと、おばちゃんがトレーに乗ったとんかつカレー定食を持ってきて「お待たせ。熱いから気をつけて食べるんだよ」
手前のあやねから順番にトレーを置いていくと「待ってました! いただきます!」お箸でとんかつを持ち上げる。
「こんなにおいしいものが食べられるなんて、もう少しこのままこっちにいてもいいかな」リエルがとんかつを噛みしめるので「いつまででも、いてくらはい」
「あやねちゃん、口の中を空っぽにしてからしゃべる」
モグモグモグ「はい」
大盛のとんかつカレーを仲良く三人で味わいながら食べていると、奥からエプロンと調理帽をかぶった里緒奈が出てきた。
「華河さん、今日は来てくれてありがとう」
「桧山さん。とんかつカレー、メッチャおいしかったよ」
「気に入ってもらえてよかった」
「今度は、剣道部の仲間を連れてくるよ」
「……そうなんだ」
「そういえば、お父さんのところへ行くって、お兄さんのお見舞いに行ったとき聞いたけど、戻ってきたら、またここでバイトするの?」
「その予定。他の料理も教えてくれるって、料理長が言ってくれてるから」
「じゃあ、味見役やるよ」
「あやねちゃんは、たくさん食べられるからやりたいんでしょう?」千奈津の突っこみに「バレたか」
その後、少し話したあと、里緒奈は厨房へ戻っていく。
そして、ミシュエルたちが来ることはなかった。