37-3 契約の行方
「では、里緒奈の手料理でも食べに行くか」ミシュエルが立ち上がるので「あの、契約のことはどうなるんですか?」あやねが聞くと「継続しないんだろう?」
「そんなこと……」
「セイジツへの気持ちが無くなってしまったのなら」と言ってリエルを睨むと「継続する意味はないだろう」
「完全になくなったわけじゃないです」
「だから?」
「だから……私もどうしたらいいか、わからない、です」
「だから?」
「もう少し、時間がほしいです」
「時間はない」
「……延長できないんですか?」
「それは私ではなく、隣にいるナルシストに聞け」
「私のことか?」
「他に誰かいるか?」
「よく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
「……隣の責任者に聞いてみろ」
「聞きます」
「ダメだ」
「返事が早すぎる!」
「契約期間は、私たちでどうこうできるものではないんだ。だから、決められないのであれば、自動的に午前零時で終了となる」
「そうなると、もうみんなと会えなくなるんですか?」
「基本はそうなる」
「そうならないようにすることはできないんですか?」
「……できない」
「じゃあ、違う内容で契約すれば大丈夫ですよね?」
「どんな内容でだ?」
「それは……」
「私たちが契約を承諾できるのは、契約内容に打算やおごりがなく、かつ、契約内容を完了できるものだけになる。それに値しないものは了承できない。つまり、契約できないということだ」
「そんな……」ガックリと肩を落とすと「とはいえ、今回は突発的な事件が起き、さらに、被害者の一人ということもあるので、特別に、特例を認めてもらえた」
「じゃあ!」
「リエルも、本来は君の前に姿を現すことはなかったが、私たちだけで対応できることではなかったのもあり、やむを得ない状態となった。ゆえに、十日間、延長することが認められた」
「なぜ既定の十五日じゃないんだ?」疑問に思うミシュエルに「残りの五日間は、今回の後始末と、次回の準備期間だ」
「そういうことか」ため息を吐くと「ということだ、あやね。明日ここに来て、チィにネイルチップのメンテナンスをしてもらえ」
「はい!」
「そして、セイジツの見舞いに行ってやれ。あやねの身代わりになったんだからな」
「ああ、そうですね。お礼も言わないといけないですから。それに、桧山君も心配だし」
「アイツは当分起きないから、行っても無駄だ」
「どのくらいで目が覚めるんですか?」
「さあな。上層部から特別対応措置が取られたらしいから、一週間前後で目が覚めるだろう」
「そうなんですか。その一が心配してたから。教えてあげることはダメですよね?」
「当たり前だろう。どうやって説明するんだ?」
「ハハハッ、そうですよね。いきなり一週間くらいで目が覚めると言ったら、予言者にでもなったのか、とか言われて揶揄われそうです」