36-2 そして、最終日の十五日目
「そういえば気になってるんだけどさ」その一が話題を変える。「あやねのネイルチップ、そろそろ終わりじゃないのか? 色が薄くなってきてるよ」
「エッ? アッ、本当だ」指先のチップを見ると、全体的に色が落ちてきている。
(そういえば、今日が契約最終日だ。だから、ネイルの効果も落ちてきたってことなのかな?)
「練習終わったらネイルサロンへ行くんだろう?」
「うん」
「じゃあ,直してもらえるね」
「……どうだろう」
「なんだ、飽きたのか?」
「そういう訳じゃないけど」
「その一は、愛しい彼のお見舞いだろう?」その二が揶揄うので「今日は行かない」
「なんで?」
「今日は、彼の家族がお見舞いに来る日だから」
「向こうの家族は、まだその一のことを知らないのか?」
「付き合いだしたの、ついこの間だから」
「あれ? そういえばさ。その一って、アーモチーフ狙いじゃなかった?」あやねが思い出すと「アーモチーフ? 誰だ?」その二が聞き返す。
「あ、ああ、アモニスチーフ。インテリ系のイケメンのことだよ」
「アモニスチーフって名前なのか? 変わった名前だな」
「違う! ミシュウさんの上司、チーフ」
「ああ、そうなのか。あのイケメン、アモニスっていうのか」
「その二。好みなの?」
「ちょっといいかな」
「一緒にいた美人がライバルだよ」とその一が言うので「マジで! じゃあ無理だわ」
(アーモチーフが、どう言ってその一を諦めさせたのか、想像できるかも)
「リエルさんも、あの美人狙いなのかな?」その三が落ち込むので「リエルさんはミシュウさんの後輩だから、気を遣ってるみたいだよ」
「それだけ?」納得できず、あやねに探りを入れる。
「ああ、あと、ネイリストのお姉さんもリエルさん狙いだから、ライバル多いよ」
「大丈夫。私には若さという武器がある!」
「……ちなみに、私もリエルさん狙い」
「エッ! 何言ってんの? あやねにはセイジツ君がいるじゃん。そんなにあちこち手を出さないでよ。それでなくてもイケメンは競争率が高いんだから」
「こればっかりは、自分の意思をコントロールできないでしょう?」
「できるぞ」自信満々にその二が言うので「そんなことができるのは、その二だけだよ」
「同意」拍手するその一。
「素晴らしい」尊敬するその三。
「あんたらさ。感情に身を任せて右往左往してると、取り残されるよ」
「ううッ! 耳の痛いこと言わないでよ」耳を塞ぐその一。
「その二。すごい真面目なこと言ってるけど、どうしたの?」心配になるあやね。
「壊れたっぽくない?」その二を見るその三。
「あやねがセイジツ君を捨てたみたいだから、その二はセイジツ君狙ったらいいじゃん。IQ百六十らしいし」
「そうだな」
「ちょっと待ってよ。誰が何を捨てたって?」
「あやねがセイジツ君を捨てただろう?」
「捨ててないよ」
「じゃあ、リエルさんをやめた」
「あ、いや、やめてないかな?」
「どっちかにしろ。さもないと切るぞ」
「だから、江戸時代の辻斬りじゃないから」