4-2 特殊ネイル
あれこれと考えた結果「名前はたぶんセイジツだと思う彼と、お付き合い……」グシャグシャと字を消して「彼と仲良くなりたいです」と書きなおし、生年月日は、彼がかよう高校の剣道部と練習試合をおこない、仲良くなった部員から教えてもらった日にちを書いて契約書を渡すと「この生年月日、彼の名前の横に書かれてるけど、聞きたいのはあやねちゃんの生年月日」
「えっ、アッ、すみません! すぐ書き直します!」
「ああ、せっかくだから、彼の生年月日はそのままにしといて、自分の名前の横に書いて」
「はい」急いで書き足して渡すと、千奈津は悩み事欄を読み「フウン。今の状況から考えると、絶賛絶望中ってことか」
「あ、いえ、その……そんなハッキリと言わないでください」
「ああ、ごめん」
あやねが俯くので「落ち込んでなんかいられないよ。これから挽回するんでしょう?」
「あ……でも……」
「ミシュウ、契約書」
千奈津が、奥の窓に向かって斜めに置いてある一人掛け用のソファ向かって契約書を差しだすと、いつの間にか長髪ウェービーヘアの金髪の女性が座っていて、書面を無造作に受けとると悩み事欄を読む。
「彼と仲良くなりたい。友達でいいということか?」書面を返し「それなら直接言えばいいだろう。余程の変態でないかぎり、友達になってくれる。それは悩み事じゃない」
「余程じゃなくても変態はヤダけどね。確かに、この程度じゃ、わざわざ契約する必要ないね」
「エエッ! そんな!」
金髪の女性は振り向きもせず、脚を組んで座り、頬杖をついて本らしきものを読んでいる。
「この国の人間はストレートにものを言わないから鬱陶しい。なにが本音と建前だ。遠慮してたら欲しいものは手に入らないし、なりたい状況にもならないだろうが」
「そうだけど、ミシュウみたいに強い性格の人間ばかりじゃないよ」
「とにかく、その内容では受け付けられない。書き直すか契約破棄するか、どっちかにしろ」
「どうする?」あやねに聞くと「どうすると言われても……どう書いたら受け付けてくれるんですか?」
「そんなこともわからないのか? 本音を書けばいいんだ!」金髪女性はため息を吐き、呆れた口調で振り向きもせずに吐き捨てる。
「ミシュウ、言葉が汚いよ。仮にも彼女はお客様なんだからね」千奈津が注意すると「……わかった」フウ、とため息を吐き「自分の心に正直になって、どういう状態が自分にとって幸せと感じるか、を書けばいい」
「はあ、自分の心に正直に」
「今は衝撃を受けた後だから、頭が働かないのはしょうがないよ」あやねの心情を思ってフォローすると「……はい」ウルウルウル。
「はいはい、泣かないの」ティッシュを渡すと「すみません。思い出しちゃって……」