4-2 特殊ネイル
「ミシュウ、契約書」
千奈津が、窓に向かって斜めに置いてある一人掛け用のソファ向かって契約書を差し出すと、いつの間にか長髪ウェービーヘアの金髪の女性が座っていて、書面を無造作に受けとると悩み事の欄を読み「彼と仲良くなりたい。友達でいいということか?」書面を返し「それなら直接言えばいいだろう。余程の変態でないかぎり、友達になってくれる。それは悩み事じゃない」
「余程じゃなくても変態はヤダけどね。確かに、この程度じゃ、わざわざ契約する必要ないね」
「エエッ! そんな!」
金髪の女性は振り向きもせず、脚を組んで座り、頬杖をついて本らしきものを読んでいる。
「この国の人間はストレートにものを言わないから鬱陶しい。何が本音と建前だ。遠慮してたら欲しいものは手に入らないし、なりたい状況にもならないだろうが」
「そうだけど、ミシュウみたいに強い性格の人間ばかりじゃないよ」
「とにかく、その内容では受け付けられない。書き直すか契約破棄するか、どっちかにしろ」
「どうする?」
「どうすると言われても……どう書いたら受け付けてくれるんですか?」
「そんなこともわからないのか? 本音を書けばいいんだ」金髪女性はため息を吐き、呆れた口調で振り向きもせずに吐き捨てる。
「ミシュウ、言葉が汚いよ。仮にも彼女はお客様なんだからね」千奈津が注意すると「……わかった」フウ、とため息を吐き「自分の心に正直になって、どういう状態が自分にとって幸せと感じるか、を書けばいい」
「はあ、自分の心に正直に」
「今は衝撃を受けた後だから、頭が働かないのはしょうがないよ」あやねの心情を思ってフォローすると「……はい」ウルウルウル。
「はいはい、泣かないの」ティッシュを渡すと「すみません。思い出しちゃって……」
「どうしようか。今日はもう遅いから、明日また来る?」
「あの、よく考えてから書きたいので、持って帰ってもいいですか?」
「構わないけど、幾つか条件がある」
「条件? なんですか?」
「この条件を守れなかったら、契約を破棄したことになって二度と契約できなくなるけど、いい?」
「……わかりました」
「条件一、この契約書を他の人に見せたり、見られたりしないようにすること。
条件二、ここでのことを他の人に話したりしないこと。
条件三、この契約書は、この部屋から出たら二十四時間以内に戻さないと消滅してしまうので、その時も契約は破棄されたとみなされ、二度と契約はできなくなるので注意して」
「ここでのことは話したらいけないんですか?」
「話してもいいけど、二度と来られなくなるよ」
「エエッ! どうしてですか!」
「それはね、ここが特殊な部屋だからだよ」