23-2 問題の対応
「あやね、これから例の生き物が捕獲されるまで、これを持ち歩け」バッグの中から、黒い光沢のある石でできたト音記号のような形の鎖が付いたペンダントを取りだし、渡すと「これは何でできてるんですか?」掌に乗せてよく見る。
「黒曜石だ。これを常に首から下げておけ」
「黒曜石って宝石ですか?」
「そうだ」
「でも、宝石って水に濡れたらダメなものとかないですか? お風呂のときは外さないとダメですよね?」
「付けとけ。心配するな。その石は濡れても変化しないしチェーンも錆びることはない。ただ、濡れたらきれいに拭きとれ」
「どうしてですか?」
「あやねの肌がかぶれるだろう」
「あ、わかりました」首から下げると不安そうな顔をするので「そんな顔するな。大丈夫。例の奴を捕獲するまでだ。死にやしないし、剣道の練習に支障が起きる前に私たちが捕まえる」
「……ミシュウさん」
「それと、リエルを慕うのは止めないが、お前の相手は人間だ。その点を間違えるな」
「それじゃあ、千奈津さんはどうなんですか? 千奈津さんは人間ですよね?」
「チィのことはホッといていい。気にするな」
「どうしてですか?」
「今は、そんなこと考えてる場合じゃないだろう」
「まあ……そうですけど……」不満そうに口を尖らせるので「その顔で変顔するな」
「したっていいじゃないですか」
「まったく、だからあやねの前に出てくるなと言っといたのに」ブツブツ文句を言うと「じゃあ、明日の予定を話す。明日の朝、起きたとき、そのペンダントの形が変わってなければ、剣道の練習後、セイジツに会いに行け。もしペンダントの形が変わってたら、練習後、まっすくネイルサロンへ来い」
「どんな形に変わるんですか?」
「正方形に変わる」
「そうですか……」手に取ってト音記号のような形の石を見ると「これ、ぶつけたら割れたりしませんか?」
「その心配はない。絶対割れないからな」
「ヘェ」
「もう一度言う。明日の朝、ペンダントの形が変わってたら、セイジツに会いに行かずネイルサロンへ来い」
「あ、はい」
「絶対に守れ」
「守らなかったら?」
「聞くのか?」
「い、いいえ。わかりました」
「よろしい」
「明後日だが、明日の状態を見て決める」
「ペンダントの形が変わってなかったら、練習後、セイジツ君に会いに行ってもいいんですよね?」
「そうだ」
「じゃあ、もしですよ。もし、ペンダントの形が変わってるのに、サロンに行かないで……」
「なんだ?」
「……なんでもないです」
「じゃあな。言ったことは守れよ」ミシュエルは待たせてあるタクシーに乗って帰っていく。