20 十日目の練習
「あやね! 昨日、すごいイケメンと会ったんだよ!」長身の「友人その一」が、興奮気味に話し掛けてくる。
剣道の練習が終わった午後六時過ぎ。
いつもの友人三人組が走り寄ってくると、興奮した顔で話し掛けてくる。
「現実にいるんだな。アニメの中にしかいないと思ってたイケメンが」
「あのイケメンになら、切られてもいい」
「それ、おかしいって。でも、どこで会ったの?」
更衣室で制服に着替えながら話を進める。
「座山駅の北口のメインストリートにある、連絡通路へ上がるエスカレーターの前だよ」
「友人との待ち合わせ場所がわからないから、教えてほしいって声を掛けられたんだ」
「その場所が、駅前ロータリー左側の死角になってるカフェだったから三人で案内したんだけど、待ち合わせまで時間があるから、一緒に時間を潰してくれないかって言われて、飲み物まで奢ってもらったんだよ」
「ヘェ、そうなんだ」笑顔で話す三人が珍しく、興味を持ちはじめる。
「奥の四人掛けのボックス席に座ったんだけど、周りの席に座ってた女子たちが羨ましそうにこっちを見ててさ」
「そうそう! なんか、ちょっと優越感に浸っちゃった」
「あんなイケメン、こんな所にいるなんて思わないよ。なんかハーフみたいだし」
「ハーフ? どんな人だったの?」
「サラサラの茶髪に黒のジャケットがメッチャ似合ってて、瞳の色がグリーンぽかったから、イギリス系の人かもって思った」
「でも、違和感なく日本語しゃべってたから、ビックリしたよ」
「私、ジャンケンで勝って彼の隣に座ったんだけど、甘い香りのする香水をつけてたよ。あれ、なんていう香水なんだろう?」夢見心地のアイドル好き。
普段は剣道一筋の友人たちが、突然会った見知らぬ男性のことを楽しそうに話すのが珍しく、意外に思ったあやねが「その人の名前とか聞いたの?」
「もちろん。名前はリエル」
「年は二十一歳。身長は百七十五くらいかな?」
「大学の交換留学生として、三か月前から日本に来てるんだって」
(リエルさんだ! じゃあ、昨日話してた剣道の友人たちって……)
「もしかして、昨日、私のあとを付けてた?」
「エッ!」
「突然、どうした?」
「なんで、そんなことわかるの?」
「やっぱり」
「バカ。なんで正直に言うのよ」
「ごめん……」
「バレちゃったジャンか」
「いいよ。怒らないから。心配してくれたんだよね?」
「あやね。付けたりしてゴメン」
「でも、最近のあやねを見てると心配でさ」
「困ってることがあるんだったら、力になれないかと思って」
「うん、ありがとう。でも、もう少しで解決するから、大丈夫だよ」
「本当?」
「前みたいに寝られないとかないか?」
「虐められてない?」
「大丈夫だから。そうだ、またたこ焼き食べに行こう」
「いいの?」
「今日は駅近のたい焼きにしないか? 栗餡食べたい」
「賛成!」
「じゃあ、途中で飲み物買っていこう」