19-2 九日目の途中経過
リエルが帰った後、しばらく誰もしゃべらないので沈黙の時間が始まる。
(なんか、いろんな事がいっぺんに起きたから、頭の中が混乱してる)
なにが起きていたのかをまとめようと、意識が戻ったところから思い返しはじめる。
(リエルさんはミシュウさんの後輩で、なんの後輩なんだろう? プログラム? 修正?)
「ミシュウ、あやねちゃんにこれからの予定を伝えないといけないんでしょう? もう遅くなっちゃってるから、早く帰さないとご両親が心配するよ」
壁に掛かっている時計を見ると、午後八時を回っている。
「ああ、もうこんな時間なのか」ミシュエルはどこから取り出したのか、例の白いバインダーを開くと何かを確認し「あやね。これからの行動を説明するから、よく聞け」
「あ、はい」
「明日はこちらの予定はないから、剣道の練習に励め。明後日、剣道の練習が終わったら、もう一度セイジツに会いにいけ」
「明日じゃダメなんですか?」
「明日は来ない」
「エッ、そうなんですか?」
「またアーモが例のコンビニで待ってるから」と言うとアーモがミシュエルを見上げるので「今度は意識を失うことなく、ちゃんと現状を見て聞いてこい」
「現状、ですか?」
「そうだ!」
「……はい!」
「では、家まで送ってくる」ミシュエルが立ち上がるので「あ、大丈夫です。一人で帰れますから」
「まだ話があるんだ」
「……わかりました」
あやねは紅茶を飲み干すとバッグを持ち、ミシュエルの後から玄関に向かうと、ドア前でこちらを見ているアーモに「アーモ君、明後日、あのコンビニで待っててね」
「ワン!」
「じゃあね。千奈津さん、お邪魔しました」
「はい。次は明後日だね。意識失わないように、気合を入れて行ってね」
「……自信ないですけど、頑張ります」
一階の音楽教室の受付前を通り、外に出てモノレール駅近くの大通りでタクシーを拾うと、あやねの家に向かう。
無言のまま二十分も走ると家に着き、またタクシーを待たせて玄関前にいく。
「今日もタクシー代すみません」
「そんな事は気にしなくていい。それより、意識を失いやす過ぎる」
「……すみません」
「契約後にあやねのことを調べたところ、剣道は中学から始めたらしいが、都大会で優勝するくらいのメンタルを持ってるので、そこまで精神的に弱くはないはず。なにか思い当たることはないか?」
「はあ、そう言われても……」
「意識を失う前に何があったか、思い出してくれないか? 難しいかもしれないが、気になること、変に感じたことがあったか思い出してほしい」
「あの、私の身になにか起きてるんですか?」
「それを確認したい」
「それって……」
「ちょっと腑に落ちないことがあるから、確認したいんだ」
「……それって」
「何かが憑依してるとか考えてるんだろう?」
「……はい」
「まあ、あながち違うとも言えないが」
「そうなんですか!」
「だから、それを調べたいんだ。まあ、思い出せるところだけでいいから」
「……はい」
「心配するな。私が付いてるかぎり、下手なことはさせない」
「ミシュウさん……」
「とにかく、なにか気付いたことがあったら都度メモして、教えてくれ」
「わかりました」
「じゃあな」
ミシュエルはタクシーに乗って帰っていく。