3 アーモのネイルサロンへようこそ
「お茶飲む?」
「エ?」
「お茶飲むって聞いたの」
「あ、はい」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
(えっと、ここはどこ?)
マンションの一室らしく、ハワイアン風の装飾に、一人掛け用のソファと観葉植物。
奥の大きな窓の近くにテーブルとTVモニターが置いてある。
自分は部屋の中央に置いてある横長のソファに座り、目の前にはガラス張りのテーブルがあって、ガラスの下に置いてある手作りと思われるイヤリングや装飾品がいくつか見える。
「あの、ここは」北側のキッチンにいる女性に向かって声を掛けると「エッ、なに?」お茶を入れる手を止め、振り返って聞いてくる。
「あの、ここはどこですか?」
「やっぱり、何も覚えてないんだ。まあね、気持ちはわかるよ」
「はあ」
「はい。紅茶でいい?」ハワイ風のビビットカラーの植物が描かれたカップをテーブルに置くので「ありがとう、ございます」
「まあ、気を落とさないで。人口の約半分は男なんだから、もっといい男が見付かるって」
「はあ……」
「ワン」
「あら、えっと、アーモちゃんだったっけ。ということは、ここは……」
「アーモのネイルサロンへ、ようこそ」
「アーモのネイルサロン?」
改めて部屋の中を見ると、奥のテーブルの周りや壁にはネイルチップや色見本が置いてあり、一人掛け用のソファ脇に置いてあるラックには、ネイルの専門誌が何冊か入っている。
その一人掛け用のソファはペディキュア用らしい。窓に向けて斜めに置いてある。
「そういえば、アーモちゃんの飼い主はネイルサロンをやってるって。じゃあ、あなたが東山さんですか?」
「そう、東山千奈津。このネイルサロンのオーナー」
黒髪のショートカットにエプロンをして、年は二十代中頃くらいに見える。
「この子はお店のマスコットでアーモ君」ブラックタンのミニチュアダックスの頭を撫でる。
「アーモ君。男の子だったんだ。私は華河あやねです」
「あやねちゃんね。高校生?」
「はい。三年です」
「そっか。その制服は、旋律高校かな?」
「はい」
「ヘェ、けっこう優秀なんだ。大学まである付属高校でしょう? 確か優秀なスポーツ選手が推薦で大学に行けるんだよね?」
「詳しいんですね」
「スポーツをしてる人なら誰でも知ってるよ。あやねちゃんは何をしてるの?」
「剣道です」
「おおっ、見掛けによらずハードなことしてるんだね」
「まあ、時々そう言われます」
「ハハハ、そうなんだ」
「あ、千奈津さんのネイル、かわいい」
「そう? ありがとう」
「個人でお店を開いてるんですか?」
「そうだよ」
「いいな。私もやってみたいな」自分の爪を見るので「旋律高校はネイルしてもいいの?」
「はい。派手なものでなければ、そんなに厳しくないです」
「じゃあ、やってみる?」