15-2 羽根の形のドアノブ
「どうして知ってるんですか! ミシュウさんが話してるんですか?」
「それはない」
「エッ? それじゃあ」
「ミシュウは、契約した相手の情報は、絶対話してくれないよ」
「じゃあ、どうして千奈津さんが知ってるんですか?」
「昨日、ここから出ていくとき、ミシュウが「セイジツと会えるぞ」と言ったでしょう?
それなのに、今日来たあやねちゃんは落ち込んでた。
あやねちゃんが落ち込む理由は一つ。
例の彼が、また例の美人の彼女と一緒にいたか、帰ってるところを見たからと想像したわけ」
「……そうなんです。あの子のバイト先に彼が迎えに来てたんです……」ウルウルウル。
「……そうなんだ」
「だから、ミシュウさんに、もういいと言ったんです」
「もういいって、どういう意味? 契約を破棄したいってこと?」
「はい……だって、あの二人、付き合ってるかもしれないんですよ」
「あのね。そんなことしたら」
「私の幸福が一つ消えると言われました」
「そのとおりだよ」
「でも……」
「ミシュウはなんて言ったの?」
「もしあの二人が付き合ってるのなら、私が契約を承諾することないって」
「ミシュウの言うとおりだよ」後ろの棚に置いてあるティッシュをあやねに渡すと「でも、信じられなくて……」受け取って涙を拭く。
「あやねちゃんの気持ちはわかるよ。でも、これだけは言っとくね。ミシュウは今まで、契約を完了できなかったことはないよ」
「……そうなんですか?」
「私がここでネイルサロンをはじめて八年経つけど、その間に契約した人は全員、願い事を叶えて前向きに人生に取り組んでるよ」
「契約した人は何人くらいいるんですか?」
「さあ、何人いたかな? 特殊ネイルの話をするのは、特別な事情があるか縁があった人だから、トータルでそんなにいないけど、八十人くらいかな?
半年くらいいないときもあったし、逆に、ひと月で三人契約したときがあるから。
それに、契約書はミシュウが持ってるから、見返すことできないし」
「……そうなんですか? じゃあ、あの契約書はミシュウさんから貰うんですか?」
「そうだよ」
「……ミシュウさんは、人間ですか?」
「ハハハッ、そう思うよね?」
「不思議な人です。どこで会ったんですか?」
「内緒」
「またですか!」
「それは、あやねちゃんの契約が完了したらね」
「……はい」
「とにかく、あやねちゃんもミシュウを信じて、契約書に書いたことを叶えるために頑張るんだよ。契約書の注意事項にも書いてあったでしょう?」
「はい……頑張ります」
「よろしい」
「……ミシュウさんの言い方が移ってますよ」