15-1 羽根の形のドアノブ
「特殊ネイルの契約をした人にだけ、羽根の形のドアノブが見えるんですか?」
「見えるんじゃなくて、現れるんだよ」
「現れる? じゃあ、普通のネイルをしてる人には現れないんですか?」
「そういうこと」
「どうしてですか?」
「特殊ネイルが特殊だから」
「……じゃあ、どう特殊なんですか?」
「あやねちゃんは、どうして特殊ネイルをしようと思ったの?」
「それは……願い事が、一つ、叶うって言われたから……」
「それで、その後どうした?」
「その後、契約書に願い事を書いて、サインしました」
「そう。その契約は誰とした?」
「誰とした?」
「その契約を承諾したのは誰?」
「ミシュエルさん……です」
「そう。ミシュウと契約すると、表のドアノブが羽根の形なるんだよ」
「ミシュウさんと契約すると?」あやねは考えると「あの、ミシュウさんて……」
「内緒」
「エエッ! まだ全部話してませんよ!」
「聞きたいことはわかるよ。ミシュウは何者かってことでしょう?」
「はい」
「だから、内緒」
「どうしてですか?」
「じゃあ、あやねちゃんは、ミシュウは何者だと思う?」
「それは……」
「正直に言っていいよ」
「はい……最初は外国の人だと思ってました。けど、なんか、雰囲気というか存在感というか、こう言ったら怒られちゃうかもしれないけど、人間ぽくないと思うようになって……」
「まあ、方向性は大体あってるかな」
「エエッ! 本当ですか!」
「シッ! 声が大きいよ。あやねちゃん家みたいに一軒家じゃないから、あまり大声出さないようにね」
「あ、すみません」口を押えて謝る。
「実はこの前、管理会社から注意されちゃったんだ。ミシュウの服装を注意したとき、大声出しちゃったから」
「そうなんですか……でも、ミシュウさんのこと、大体あってるって、どういう意味ですか?」
「そうだね……これは、あやねちゃんの契約が完了した後に話すよ。今はまだ、契約実行中だからね」
「あ……はい。わかりました」
「じゃあ、メンテナンスが終わったから、こっちに来て」
「はい」カップを置いてネイル用の椅子に座ると「普通、チップって取れやすいじゃないですか。でも、このチップは全然取れないんですけど、なんでですか?」
「それはね。接着剤も特殊だからだよ」
「特殊ネイル用だから取れないんですか?」
「そう。じゃないと、付けてる意味がないでしょう?」
「そうですよね」
一本ずつチップを付けていくと「今、契約日数の半分まできたから、後半戦、頑張ってね」
「はい……」
「どうしたの? 元気ないよ」
「こう言ったらいけないんだと思うんですけど、本当にうまくいくのかわからなくなってきちゃって……」
「例の彼が、美人の同級生と一緒に帰ってたから?」