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アーモのネイルサロンへようこそ  作者: 夏八木 瀬莉乃
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1-3 はじめましては

 

 駅に続くメインストリートに出ると横断歩道を渡って大型デパートの前を走りぬけ、エスカレーターに乗って駅前にあるバスターミナルの上の広場に向かう。


 人の波に逆らって、駅ビルの中をとおる南北連絡通路の出入り口前にある花壇までくると、ゆっくり歩いてヘリに座る。


「ハアハアハア、何とか、間に合った、かな」抱えている犬を揺らさないように左手で押さえながら走ったので、息が上がっていた。


「ワンワン」 

「ああ、ごめんね。揺れて気分悪くなった?」


 ナップザックから出して抱っこすると、物珍しそうに辺りをキョロキョロと見はじめる。


 腕時計を見ると午後六時四十分。


「そろそろ来るかな」息を整えていると、スポーツバックを持った高校生の一団が、南北連絡通路の奥から歩いてくるのが見えてきた。


「あれかな?」歩いてくる一団を注意深く見ると「いた!」


 その一団は目の前にくると立ち止まり、なにやら話しだした。


「これからなにか食べにいくか?」

「俺、今月小遣いピンチなんだ。(おご)ってくれよ」


「やだよ。金ねえんだったら帰れよ」

「おこぼれでいいからさ~。俺たち友達じゃん」

「気持ちわりいな。おこぼれなんてねえよ」


 四・五名の団体は部活の帰りなので、みんないい具合に焼けている。


「あれ? ミニチュアダックス?」一団の一人があやねに気付き、近寄ってきて犬の頭を撫でる。


「君の犬? この子ブラックタンだね。珍しい」

「あ、い、いえ、あの、ちょっと預かってて」(ブラックタンって何だろう?)


「そうなんだ。名前なんていうの?」

「エッ、名前?」

「ワン」


「あ、その、名前は、チョ、チョコ?」

「チョコ君? 男の子?」

「あ、たぶん」


「俺、犬が大好きなんだ。抱っこしていい?」

「あ、たぶん」


「よっしゃ。こい!」スポーツバッグを置くと、犬をヒョイと持ち上げて抱っこする。

「ワンワン」


「オッ、きれいにブラッシングしてもらってるな」

「ワン」

「お前、かわいいな」


「セイジツの恋人は犬か?」一団の一人がからかうと「犬でもいいかな」

「出た! 犬バカ!」


「なんとでも言えよ! 犬好きに悪者はいないんだぞ!」

「ワン!」


「なあ。お前もそう思うだろう?」

「ワンワン」


「なんだ、俺の言葉がわかるのか?」

「ワン!」

「お前、賢いな」

「ワン」


「じゃあ、そろそろ戻るか。ありがとう」

「あ、いえ」

「じゃあな。チョコ」

「ワン」


 頭を撫でてバッグを持つと、一団はなにかを食べに、雑踏の中に消えていった。


 あやねは一団の後ろ姿を見送ると「あんなに近くで話ができるなんて。ありがとう! 君のお陰で彼と話すことができたよ!」


 ギューッ。

「ワンワンワン!」

「あ、ごめん!」

「ワン」


「じゃあ、家まで送ってあげるね」

「ワン!」


「さあ、さっきの住宅街まで戻るか」



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