2 いきなりの衝撃
来た道を戻り、エスカレーターで下の道へ降りてメインストリートを北へ向かって歩いていくと、楽しそうな話し声と、鼻をくすぐるおいしそうな匂いが、通り沿いの飲食店から漂ってきた。
「やばい、お腹空いてきた」
甘い誘惑にかられそうになるが、犬を連れているとお店に入れないので、我慢して歩く。
「君もお腹空いてきたよね?」
抱えているナップザックからまだ顔を出しているので、頭を撫でると振りむき「ワンワン」と吠えて前をむく。
「さて、君の家はどこ?」
「ワン」モゾモゾと手足を動かすので「あ、降りる?」
大きな十字路で下に降ろすと周りをキョロキョロと見て、少しすると左側へ、西へ向かって歩きだす。
「こっちなの?」
あとを付いていくと映画館の前をとおり、有名デパートの横を過ぎてモノレールの高架下を抜けると、その先の十字路を渡り、そのまま真っ直ぐ歩いていく。
「いつもこんな大通りを散歩してるの?」声を掛けると立ち止まって振りむき「ワン」と鳴くとまた歩き出すので「……そう、なんだ」
そこからほどなくして一階と二階に音楽教室が入っている七階建てのマンションに入っていくと、エレベーター前に立っている初老の女性が「あらアーモちゃん。こんな遅くに散歩してたの?」と声を掛けてきた。
「あの、この犬をご存じなんですか?」
「ええ。ここの四階でネイルサロンをしてる東山さんちのワンちゃんよ」
「ネイルサロンですか」
「ええ。あ、来たわよ」
エレベーターの扉が開くと、犬は臆することなく入っていく。
「あなたも乗るんでしょう?」
「あ、いえ。この子を送りに来ただけですから」
「そうなの。じゃあ、私が部屋まで連れていくわね」
「お願いします。じゃあね。バイバイ」手を振ると扉が閉まる。
次の日の夕方。
いつものように駅へ向かって走っていると、メインストリート手前のコンビニの前にあの犬がいるのに気付き、足を止めた。
「えっと、アーモちゃんだったかな?」
「ワン!」
「また一匹でいると、昨日みたいに連れていこうとする怖い人達が来るよ」
「ワン」足元に来るので「また、君を連れていくと話し掛けてくれるかな?」
「ワンワン」
「よし! また家まで送ってあげるから、一緒に行こう!」抱き上げると、ナップザックに入れて駅前のメインストリートへ向かって走る。
時間前にいつもの広場の花壇のヘリに座ると、駅の連絡通路の奥を見る。
すると、今日は違う光景が目に入ってきた。
いつもの一団ではなく、自分と同じ制服を着た女子高生と彼が一緒に歩いてくる。
「あの子は、うちの学校の美少女三人組の一人だ」
各学年から一人選ばれる文化祭恒例の美少女コンテストで、二年生から選ばれた学校の有名人。その子と並んで、楽しそうに話しながら歩いてくる。
「どうしてあの子と一緒にいるの?」
何が起きているのかわかるわけもなく、ただ二人を目で追うことしかできなかった。