14 六日目のメンテナンス
土曜日の剣道の練習は午前九時から始まり、都大会が迫っているのでいつも以上に気合が入り、集中していると、あっという間に終了の午後六時になった。
着替えると、剣道仲間に見送られてネイルサロンへ直行する。
いつものように音楽教室の受付前を通って奥のエレベーターで四階へ上がり、四〇七号室の前に行くと、ドアノブを確認する。
(やっぱり、この部屋のドアノブだけほかの部屋のものと違う)
隣の四〇六号室のドアノブを見ると、ごく普通のノブが付いている。
(勝手に変えていいのかな? ここ、賃貸マンションだよね?)
不思議に思いながら四○七号室のチャイムを鳴らすと、エプロン姿の千奈津が出てきて「いらっしゃい。来るころだと思ってた。どうぞ」
玄関に入ってドアを閉めると「千奈津さん、ちょっと聞いていいですか?」部屋に上がらず声を掛ける。
「なに?」
「ドアノブのことです。内側のノブは他の部屋の物と同じですが、外のドアノブが違うのはどうしてですか?」
「ああ、そういえば、前にも聞いてきたね」
「最初にここにきたときは普通のドアノブだったのに、二回目以降は鳥の羽根のようなノブに変わってました。取り替えたんですか?」
「そうだね。説明するから、まずは上がってよ」
「あ、はい。お邪魔します」部屋に入ると、いつもの一人掛け用のソファの隣に置いてあるクッションで、アーモが寛いでいる。
「アーモ君、こんばんは」
「あ……ワン!」
「……今、なにか言い掛けた?」
「ワンワン」
「……気のせいだよね?」
「ワン」
「あやねちゃん、紅茶入れたから座ってよ」千奈津がカップを持ってくるので「いつもありがとうございます」横長のソファに座ると「それ飲んでる間にチップのメンテナンスをしちゃうから、取り外していい?」
「あ、はい」ネイル用の椅子に移動するとチップを外してもらい、再び横長のソファへ移動する。
「そういえば、ミシュウさんはいないんですか?」
「出掛けてるよ」
「……そうなんですか」
「何か用事?」
「いえ。いないのでどうしたのかな、と思っただけです」
「そうなんだ。明日にならないと帰ってこないよ」
「そうなんですか」
千奈津がチップのメンテナンスを始めるので「特殊ネイルは、一週間ごとにメンテナンスが必要なんですか?」
「まあね。一週間経つと効力が落ちてくるから、補強しないといけないんだ」
「はあ、そうなんですか。じゃあ、来週もメンテナンスが必要ですか?」
「メンテナンスは一回だけだよ。来週末には契約完了への追い込みだから」
「ああ、そうですね。二週間目だ」飲みやすくなった紅茶を飲みはじめると「千奈津さん、そろそろドアノブのことを教えてもらえますか?」
「ああ、そうだったね」千奈津は手を動かしながら説明を始めた。「この部屋の外のドアノブが羽根の形になるのは、特殊ネイルを契約した人だけなんだよ」