13-4 五日目のお出掛け
「彼は、あの子がバイトの日に、送り迎えしてるんだ」
「……そう、なんですか……」
「途中の道に、怪しい兄ちゃんたちがいるだろう? 絡まれないようにしてるんだ」
「あ……あの子、美人だから……」
「行くぞ」歩きだすが、ボーゼンと立ち尽くすあやねに気付き、ため息を吐いて「セイジツが見てるぞ」と言うと「はい!」正気に戻る。
「帰るぞ」再度声を掛けると「あ……ウソ?」力なく返事をして付いていく。
その後、前回と同じように駅前まで戻ってくるとタクシーであやねの家まで行き、玄関前で「これからの話をしてなかったな」
「……もういいです」
「なんだって?」
「もういいです!」
「なぜ? 諦めるのか?」
「だって、あの二人は付き合ってるんですよ!」
「そんなこと、誰が言った?」
「エッ?」
「だから、あの二人が付き合ってると誰が言ったんだ?」
「あ……それは……」
「あの二人に聞いたのか? それとも、二人が付き合ってる証拠でも見たのか?」
「……いいえ」
「では、なにをもって、あの二人が付き合ってると言うんだ?」
「だって、あの子を迎えにきたじゃないですか」
「それはさっき、理由を話しただろう?」
「……はい」
「第一に、あの二人が付き合ってるんだとしたら、お前との契約が不履行になるだろう。そんな契約を私が承諾すると思ってるのか?」
「それは……思ってないです」
「なら、今時点での事実のみを見ろ」
「今時点の事実、ですか?」
「そうだ」
「……はい」
「まったく、事実を確認もせず、見ただけで勝手に結論付けるのは、愚か者がやることだ」
「……すみません」涙ぐむと「わかったら不必要に落ち込まず、自分の目標達成に向けて努力しろ。いいな!」
「……はい」
「声が小さい!」
「はい!」
「では、明日以降の説明をする。
明日の土曜日はネイルのメンテナンスをするから、サロンにこい。
日中は剣道の練習があるだろうから、夕方六時半ごろになるだろう。
明後日の日曜は休みだ。
都大会が近いから剣道の練習だろう?
帰りにまた剣道仲間たちとたこ焼きを買って、気晴らしすればいい。
週明けの月曜もまた私と出掛ける。今日ほど遅くはならないが、ちゃんと親に話しておけ。
以上だ。覚えたか?」
「……はい」ブツブツと反復していると「では明日、遅れるな」
「わかりました」
「じゃあ」後ろに待たせてあるタクシーへ向かうので「ミシュウさん、今日もありがとうございました!」
すると、左手を上げてタクシーに乗りこむ。
あやねは家に入ると母親に帰ったことを伝え、自分の部屋に入ると、鞄をおいて椅子に座り、手帳を取りだすと言われた予定を書き込んでいく。
「そういえば、どうして剣道仲間とたこ焼き食べたことを知ってるんだろう? 今日、そんな話をしたっけ?」いくら考えてもミシュエルが知っているはずがなく「アーモ君のことも、私の勘違いなのかな?」頭を撫でているアーモが自分の質問に人間の言葉で返し、話していた。
「……でも、気が付いたらいつものソファに座ってて。確か、部屋に入ってすぐにアーモ君のところに行ったはずなのに……いつソファに座ったんだろう?」
あのネイルサロンでは、最近、不可解な出来事が起きている。
「そういえば、ずっと引っ掛かってるんだけど、最初にあの部屋に行ったときと、二回目以降に行ったときのドアノブがガラッと変わっていたのは、なんでだろう?」
まるで、アニメの魔法学校に出てきそうな感じの、羽のような形をしたドアノブ。
「あんなドアノブ、売ってるのかな?」
前に千奈津に聞いたことがあったが、途中で別の話になってしまっていた。
「明日、もう一度千奈津さんに聞いてみよう」