11-4 目撃したのは
二人は駅前のロータリーまで戻ってくるとタクシー乗り場へいき、あやねの家に向かった。
それから二十分後にあやねの家の前に着き、タクシーから降りると「タクシー代、すみません」料金を支払っているミシュエルに頭を下げる。
「ああ、大した金額じゃないから気にするな」支払いを済ませてタクシーから降りると、玄関へ向かう。
門扉から家まで石畳を歩き、鍵を開けて玄関に入ると「親を呼んでこい。きちんと送ってきたと証明する」
「そんなことしなくても」
「いいから呼んでこい」
「はい」
靴を脱いで家に上がると居間へ行き、母親を連れてくる。
「初めまして。ミシュエルと言います。本日はあやねさんを遅くまで連れまわしてしまい、すみません」頭を下げるので「エッ、あ、ああ、まあ! わざわざすみません!」母親はミシュエルの姿を見ると驚き「あやね、どこで知り合ったの?」と小声で確認する。
「学校近くのネイルサロンの人だよ」
「ああ、この前話してた」
「言ったじゃん。今日は一緒に出掛けるって」
「あ、ああ、そうだったわね。日本語、大丈夫なの?」
「日本語で話してるよ」
「そ、そうね。わざわざありがとうございます」
「夕飯、ご馳走してもらったの」
「エエッ! あんた、まさかドガ食いしてないでしょうね」
「……した」
「ドカ食いしたの!」驚いて目を丸くする。
「お母さん、心配されなくても大丈夫ですよ。部活で成果を上げるために、必要分を摂取してるんですから」ミシュエルがフォローすると「そうですけど……女の子ですから……」
「その偏見はダメですよ。あやねさんが太ってると思いますか?」
「あ、いえ、そんな感じは」
「ですよね? 必要量を取っているので、剣道をやってる間は適量を食べさせてあげてください」
「はあ、そうですね……」
「今年の都大会優勝が彼女の肩に掛かってるんです。剣道部のほかの部員のためにも、健康管理はお願いします」
「あ、ああ、はい。気を付けます」
「では。ああ、明後日も一緒に出掛ける予定なので、また遅くなりますが、私が責任をもって今日のように送りますので、心配なさらないでください」
「あ、はい、わかりました。よろしくお願いします」流ちょうに話すミシュエルに、安心していいものなのか、迷う母親。
「じゃあ、タクシーを待たせてるから、これで失礼します」
「タクシーのところまで見送ります」あやねが靴を履こうとするので「来なくていい」
「でも!」
「では、明後日。言ったことは守れよ」
「あ、はい。ミシュウさん、ありがとうございました」
「じゃあな」
石畳を戻り、門扉前で待っているタクシーに乗り込むと、細い路地を大通りに向かって走っていく。