1-2 はじめましては
その途中、どこからか甲高い犬の鳴き声が聞こえてくるので足を止めた。
「ワンワンワン!」
「なんだろう? 子犬の泣き声みたい。 追い回されてるように聞こえるけど」
しばらくその場に立ち止まって耳を澄ましていると、鳴き声と一緒に、複数の少年の声が聞こえてきた。
「ワンワン! ワンワン!」
「待て! 早く捕まえろ!」
「ちっこいくせに、すばしっこいな!」
「そっちに追い込め!」
「ワンワンワン!」
突然、少し先の横道から、鳴き声の犬が飛び出してきた。
「エッ! ミニチュアダックス?」
「ワンワン!」犬は一直線に駆け寄ってくると、あやねの後ろに隠れる。
「待て! あ、いたぞ! 捕まえろ!」
あとから高校生数名が飛び出してくると、周りを取りかこむ。
「エッ! ちょ、ちょっと、あなたたち誰?」
「ワンワン!」足元から犬が見上げるのでしゃがむと「その犬は俺たちのだ。返せ!」捕まえようと犬に手を伸ばす。
「ちょっと待って! 本当にあんたたちの犬なの? 嫌がってるよ」
「ワン!」
「いいから寄越せ! じゃないと痛い目に遭うぞ!」
「痛い目って、なに?」犬を抱き上げるとムッとして言い返す。
「おい、待てよ。こいつ知ってるぞ。たしか、この先の旋律高校剣道部の主将だ」
「エッ、それって、都大会二連覇してる、華河とかいう主将か?」
「あら、私のこと知ってるの?」
「やべえ、ケガさせたら俺たち退学だぞ」
「相手が悪いぜ。行こう」
バツの悪い顔をして渋々引き上げていく。
「あの制服、隣町の北条高校だ。有名大学合格率ナンバーワンの進学校にも、あんなガラの悪い生徒がいるんだ」
駅に向かって住宅街を走っていく後ろ姿を見送ると「危なかったね。ケガはない?」抱っこしているダックスフンドを見ると「ワン!」
「それにしても、あなたのご主人はどこにいるの?」辺りを見回してみると、それらしき人が見当たらない。
「君はどこから来たの? お家に帰れる?」
「ワン」
「アーッ! 時間が! どうしよう。このまま置いてったら、きっとほかの誰かに連れてかれちゃうし、しょうがない!」
背負っていたナップザックを前に抱えると犬を中に入れ、顔を出して胸までファスナーを上げると「終わったら家まで送ってあげるから、ちょっと付き合って」駅に向かって住宅街の道を走りだす。