11-1 目撃したのは
商店街の外れ近くまでくると怪しい客引きやスカウト専門がいなくなり、ゆっくり周りを見ると「ミシュウさん、まだ先ですか?」細い路地を覗きこむ。
「もうそこだ」少し先にある一軒の古びた定食屋に入る。
ひと昔前のレトロな雰囲気が漂う店内に入ると、高校生には珍しいのか、入り口で立ち止まって、好奇心いっぱいの目で店内をグルッと見回す。
中はコの字型になったカウンター席が9席と、両脇に四人掛けのテーブル席が二卓ずつ、計四卓ある。
ミシュエルが奥のカウンター席へ行くとあやねを奥に座らせ「ここで夕飯を食べる」目の前の年季が入ったメニューを取って広げ「今日は私が奢るから、好きなものを頼め」
「いいんですか? 私、結構食べますよ」
「知ってる」
「エ?」
「いいから、好きなものを好きなだけ頼め。ただし、絶対残すな」
「もちろん! 米粒一つ残さず食べます!」
「いい心掛けだ」
その後、ミシュエルは塩バターラーメンを頼み、あやねは本日の定食大盛豪華版を頼んで、店のおばさんをビックリさせた。
「これは力仕事してるおじさん用に作った定食だよ。高校生のお嬢ちゃんにはちょっと量が多いから、他の定食にしたほうがいいと思うよ」
「大丈夫です! いつもガッツリ食べるので、お母さんに「家を潰す気か?」と言われます!」
「お母さんじゃない、母だ」
「あ、はい。母に言われてます」
「そうかい? 見掛けで決めちゃいけないのかね。かわいいお嬢さんだから、そんなに食べるように見えないんだけど。じゃあ、注文承りますよ」おばさんは目を丸くしながら奥へいくと、厨房内にいる女性に「淳ちゃん! オーダー二つ入ったからよろしくね!」と声を掛ける。
「あやね。そこから厨房が見えるだろう?」
「はい、見えますけど……あ!」
「シッ! 気付かないフリをしろ」
「ミシュウさん。どういうことですか?」
「あとで説明する。まずは腹ごしらえしろ。空腹だと短気になるからな」
あやねが気付かれないように、奥の厨房にいる淳ちゃんと呼ばれる女性を見ていると、彼女は白衣にエプロン、帽子をかぶり、料理長らしき初老の男性に指導を受けながら、一生懸命に大量の野菜を切っている。
(なんでこんな所でバイトしてるんだろう? もっとオシャレなお店が駅近くにたくさんあるのに)
学校では美人なので男子からちやほやされているが、今の彼女は、汗を掻きながら、暑い厨房で料理長のおじさんと一緒に料理を作っている。
(でも、彼女の名前、淳だったっけ? もっと今風の名前だったと思うけど……)
辛くないのかと心配になるが、彼女は笑顔で料理長の指示に返事をしている。
(なんか、楽しそう)
女子高生が興味を持つとは思えない古めかしい定食屋さんだが、楽しそうな彼女の表情を見て、なぜこのお店でバイトをはじめたのか、理由を知りたくなっていた。