10-2 三日目はお出掛け
「ちょっと説明するのが難しいというか、説明しても理解してもらえないというか。まあ、話す機会があったら説明するわ」
「説明しても理解してもらえないって、どういうことですか?」
「ん~、言葉どおり」
そこへ「これでいいか?」黒のタンクトップにスキニーのジーンスをはいたミシュエルが渋い顔をして出てくるので、気に入らないのだろう。
(早くない? 秒で着替えられるの?)目を丸くするあやね。
「まあ、それもどうかと思うけど、真っ赤なマイクロミニのワンピよりいいわ。上着と帽子を忘れないでよ」
(ワァ、足なが! やっぱりモデルだろうなあ)あやねが憧れのまなざしで見ていると「ほら、それ飲んだら行くぞ」ミシュエルがジャケットと帽子をかぶるので「あ、はい!」急いで紅茶を飲むと、バックを持って後から玄関に向かう。
「ミシュウさん。これからどこに行くんですか?」
「付いてくればわかる」
ミシュエルは座山駅に向かうと南北連絡通路を抜け、南口へ出ると階段を下りて、昨日、衝撃的な話を聞いたデテーラを通りすぎ、その先の商店街を東へ向かって歩いていく。
(こっちにはあまり来ないから、よくわからないな)
あやねがキョロキョロと辺りを見回していると「私から離れるな。変な奴にスカウトだとかいって声を掛けられて、どこかやばい店に連れていかれるぞ」
「スカウトって何のですか?」
「決まってるだろう。目じりを下げてよだれを垂らしたオヤジの、酒の相手をする仕事のスカウトだよ」
「(すごい言い方だけど)それって」
周りを見ると、それらしい人がチラホラと立っている。
「その仕事、面白いのかな」
「バイトしてみたいなら紹介してやるぞ」
「本当ですか?」
「ウソに決まってるだろう。違法行為に走るなら、この契約は無効だ」
「どうしてですか!」
「未成年なのに、そういうことをやろうとしてる奴のために、引き受けた契約じゃないからだ」
「……わかりました」
「やりたければ、そこら辺にいるチャラい兄ちゃんに言ってみな。すぐに怪しい店に連れてってくれるぞ」
「行きません!」
その後、何人もの客引きやスカウト専門の怪しい人がミシュエルを見て声を掛けてきたが「邪魔だ!」の一言で引き下がる。
(まあ、どんな服を着ても、あれだけのスタイルはわかっちゃうよね。でも「邪魔だ!」の一言で追っ払っちゃうなんて、やっぱりすごいと言うか、何というか……かっこいい……)
肩で風を切って歩くようにさっそうと歩く姿は、どう見ても目立つ。
(千奈津さんが、目立つな! と念を押してたけど、無理だよ)
一緒にいる自分はどういう関係なのかいろいろ噂されているのだろうと思うと、一緒に歩くのが恥ずかしくなるが、少しでも離れると「遅い!」と言われるので、慌てて傍へいく。