10-1 三日目はお出掛け
午後五時半。ネイルサロン。
玄関のチャイムを鳴らすと少ししてドアが開き「いらっしゃい。さあ上がって」
「はい。お邪魔します」
バッグを足元に置き、いつもの横長ソファに座ると「千奈津さん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「その前に飲み物、いつもの紅茶でいい?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「で、なに?」キッチンから声を掛けてくるので「あの、玄関のドアノブなんですけど、取り替えたんですか?」
「ああ、気が付いた?」
「あれだけ違ったら気付きます」
「それもそうだよね」
「ワン」
「あら、アーモ君!」足元に来るので抱きあげ「今日もかわいいね!」頭を撫でていると「なんだ。思ったより元気じゃないか」
ゴージャスなウェービーヘアの長い金髪を掻きあげながらミシュエルが隣の部屋から出てくると、今回、横長ソファのほうへ向いている一人掛け用のソファに座り、持ってきた白いファイルを広げる。
「ミシュウさん、こんにちは」
「ああ」
「ミシュウ。彼女はお客さんだよ」
「ワン!」
「ああ、元気そうだな」
「口が悪くてゴメンね。(態度もデカいけど)いくら言っても直す気がないみたいで」
「いえ、大丈夫です」
(威厳ありすぎて、その言い方が似合いすぎるなんて言えない)
「では、これからの予定を話す」
「はい」
「まず、今日は私が同行する。帰るのが少し遅くなるから、先に両親に連絡しておけ。帰りは家まで送る」
「ミシュウさんと一緒に出掛けるんですか?」
「不満か?」
「一言もそんなこと言ってません」
「よろしい。明日は休みで、明後日、また一緒に出掛けるから、両親に話しておけ」
「どこに行くんですか?」
「今日行くところだ」
「どこに行くんですか?」
「あとでわかる」
「……はい」
「三日後、ここに来い」
「わかりました」
「では行くぞ」
ファイルを閉じると立ち上がり、玄関へ向かうので「その服で出掛けるんですか!」
「問題あるか?」
「ミシュウ着替えて! あやねちゃん、紅茶入れたから、ミシュウが着替えるまで飲んでて!」千奈津が大声で止めるとテーブルにカップを置く。
「この服のなにがいけない?」千奈津に抗議すると「マイクロミニの真っ赤なワンピースなんか着てたらメチャクチャ目立つでしょう! なに考えての!」
「……ダメか……お気に入りの一着なんだが」
「ここはロスのハリウッドでもニューヨークのブロードウェイでもなく、日本の中型都市なの! 早く着替えて!」隣の部屋へ押し込むと、その光景を見ていたあやねが「千奈津さん」と声を掛ける。
「あの、ミシュウさんて、何者なんですか?」
「エ?」
「外国の方ですよね? (カラーリングじゃない金髪に、カラコンじゃない青い瞳だから)千奈津さんとどういう関係なんですか?」
「ンー、それは、想像に任せる」
「エエッ!」