9-2 二日目のショック
「あやね! 魂抜かれてないか?」
「どんな悪魔が吸い取りにきた?」
「聖水を買ってくるよ!」
「あ、ごめん」
ボーッと立ち尽くしていたので、友人三人か駆け寄ってくる。
「本当にどうしたんだよ? 県大会来月だよ。こんな調子じゃ、一回戦で敗退だよ」
「昨夜寝てなくて、貫徹で来たから頭がボーっとしちゃって」
「今夜は私が添い寝してやるよ」
「それとも子守歌を歌ってあげようか?」
「やっぱりここはスイーツバイキングだよ! 駅近の第二ホテルでケーキバイキングやってるから、食べに行こう!」長身が締めくくると「ありがとう。でも、部活終わったら行かないといけないところがあるから」
「ねえ、どこ行ってんの?」
「前に言ったでしょう? 仲良くなった犬がいて、その仔のところに行くんだって」
「じゃあ、一緒に行こう」
「他の人連れていけないの。ごめん」
「最近、あやね変わった。付き合い悪くなったし、急にネイルなんかしたりして。何があったの? 私たち友達じゃん。何かあったら話してよ」心配そうに聞くアイドル好きに「もちろん話すよ。これが終わったら」
「やっぱり、なにやってんの? 県大会が近いっていうのに、全然部活に力入れてないし」
「みんなありがとう。でも、もう少し待って。お願い」
「いいよ、いいよ。無理して話さなくていいから。その代わり、県大会優勝は約束してよ」
「うん。頑張る」
「わかった。話してくれるまで聞かないよ。しかし、あやねの魂を抜こうとしてる奴は、八つ裂きにする!」
「手を貸すぜ、友よ。我らが主将の魂を抜き取ろうなんざ、ふてえ野郎は許さん!」
「お縄にしてくれようぞ!」
「あんたたち、いくつ?」
その頃、ネイルサロンでは。
オーダーのネイルチップを作っている千奈津が「ねえミシュウ。いきなり彼の状況を聞かせるのは酷だよ」いつもの一人掛けの椅子に座って、バインダーに挟んである書類を見ているので「それ、あやねちゃんの調査報告書でしょう?」
「まあな。 しかし、現状を先に知ったほうが、あとで納得すると思うぞ」
「だからって、意識を失うほどの衝撃を、何度も体験させなくてもいいだろう?」椅子の右横に置いてあるクッションの上から声が聞こえてくる。
「根性が足らないだけだろう」
「……ミシュウほどの頑丈な精神力を持ってる人間は、そうそういないよ」呆れる千奈津。
「同感」クッションの上も同意するので「そうか?」意外、という顔をすミシュエルに「そうだよ」静かに答え「僕が誘導してここに連れてきてたからいいようなものを、一人だったら、どうなってるかわからなかったよ」
「それもそうだな……わかった。もう少し考え直す。それでいいか?」
「少しは、当事者の立場になって考えてあげてよ」
「……面倒くさい」
「ミシュウ」
「……わかった」