9-1 二日目のショック
次の日の午後五時四十五分。南口のデテーラ。
予定より少し早いが、ミシュエルに言われたとおり左奥のテーブルに座り、チーズトーストと飲み物のセットを買ってくると、英語の宿題をはじめた。
「今日も来るのかな?」さすがに不安が心を支配する。
今日も昨日同様、部活を早く切り上げたので、周りがさらに心配して声を掛けてきた。
午後五時過ぎ。体育館の出入り口近くに置いてある防具入れ横。
「あやね、ここに座りな」友人三人が正座する向かいに座ると「さあ、なにが起きてるのか話そう」真ん中に座っている「友人その一」の長身が真剣な顔をして聞いてくる。
「心配かけてごめん。でも、大丈夫だから」
「あやね。私たちに遠慮はしなくていい。さあ、どこのアホンダラ男なんだ?」長身の右隣に座っている「友人その二」の小柄が静かに聞くと「あやねを苦しめてるボケナス男はどこにいる?」長身の左隣にいる「友人その三」のアイドル好きが推しの心配をする。
「あやね、奴のアジトはどこだ?」「友人その二」の小柄がいつになく真剣に聞いてくるので「みんな、ありがとう。心配かけてごめんね」
「いいんだよ。あやねのためなら、一肌どころか三肌くらい脱ぐ覚悟だよ」「友人その一」の長身が、友人の心配をして寝不足になっているのがわかる。
「大丈夫。私たちがかたを付けに行ってくるから、心配しなくていい」「友人その三」
「叩き切ってくる!」「友人その二」
「みんな、年齢、誤魔化してるでしょう?」
デテールに来る前のことを思い出して苦笑すると、さっさと宿題を片づけて話を聞く体制を整えなければならないことを思い出し、集中していると、いつの間にか隣に例のグループが来て、楽しそうにおしゃべりをしていた。
「セイジツ、今日もあの美人と一緒なのかよ」
「アイツ、あれでけっこうモテるからな。共通点は犬好きだってさ」友人の一人がボソッと言うので「美人の彼女持ったら、友達なんかお払い箱ってか?」もう一人がお茶らけついでに「俺たちとは格が違うってか~」と嫌味を込める。
その後、彼らはそれぞれセットメニューを買って、食べながら雑談をはじめた。
「同じ陸上部の短距離ランナーでも、こうも違うのかよ」
「お前に彼女ができるんだったら、俺にだってできるわ」
「オッ、どっちが早く彼女を作るか、賭けるか?」
「ヤダね。賭けなくても俺のほうが先だよ」
男三人で話題は例の彼。
そうなると、宿題どころじゃない。聞き耳を立てて話に集中する。
「そんな偉そうなこと、セイジツの記録を破ってから言えよ」
「星野の記録を破れたら県大会に出れるぞ」
「そういえばアイツ、今度の都大会出場すんだろう?」
「ああ。二日前のトライアルで一位取って、出場が決まったんだ」
陸上の都大会は、剣道の都大会の翌月の第二土曜日に行われる。
あやねは携帯を取りだして、陸上の都大会がある週末に印をつけ、場所を調べるためにチェックを入れる。
「そういえばアイツ、なんかいいことあったみたいに張り切ってたな」
「あの美人の彼女が応援にでも来てたんじゃねえか?」
「そうかもな」
「クッソー。俺だってあんな美人が応援に来たら、死ぬ気で一位取るのに!」
そこからの記憶がなく、気が付いたら、自分の部屋の椅子に座っていた。
「いつ帰ってきたんだろう。また意識が吹っ飛んだかな?」