8-1 初日の行動
午後六時半、ネイルチップを着け終わると写真を撮り、横長のソファに移動する。
「すごくきれい」両手のネイルを眺めるあやね。「すごくテンションが上がります」
「気に入った?」
「はい。なんか嬉しい」笑顔で再度ネイルを眺める。
その時「そろそろ話してもいいか?」金髪女性が立ち上がって声を掛けてくるので「あ、はい、大丈夫です」あやねが左側へ移動すると隣に腰かけるので、恐る恐る「あの、名前を、聞いても、いいですか?」見上げると「私のか?」と聞いてくる。
「声を掛けるとき、困るので……」
「ああ、そうだな。私はミシュエル。チィはミシュウと呼ぶから、そう呼んでいい」
「ミシュウさん」
「では、これからのことを話すからよく聞け」
「はい」背筋を伸ばす。
「ここを出たら座山駅の南口にあるデテーラへ行き、なんでもいいから買って、一階のカウンター席に座り、午後八時までそこにいろ。
八時を過ぎたら帰っていい。
明日は、午後六時から同じ店の一階奥にある左端のテーブル席に座り、七時までそこにいろ。
そうだな。宿題やるとか本を読むとかして時間を潰せ。
午後七時を過ぎたら帰っていい。
三日目は、部活が終わったら、寄り道せずにここに来い」
「あの、それが今回の契約とどう繋がるんですか?」
「先に聞いたら面白くないだろう?」
「先にって、ミシュウさんには、なにが起こるかわかってるんですか?」
「それを聞いてどうする」
「どうするって、先にわかるんだったら聞きたいです!」
「ダメだ」
「エーッ!」
「さあ、時間がない。午後七時までに店に入るんだ。急げ!」部屋の奥にある窓の上の掛け時計を見る。
「あ、はい!」ナップザックを持つと急いで玄関へ行き、靴を履くと、じゃあ、三日後に来ればいいんですね?」
「そうだ。寄り道せずに真っすぐここへ来い。忘れるな!」
「はい! じゃあ行ってきます!」玄関のドアを開けると走っていく。
「ミシュウ。今回はどんな感じなの?」千奈津がカップを片付けはじめると「私が教えると思うか?」
「いいえ、全然」
「よろしい」
「僕たちも、そろそろ出掛ける用意をしなきゃね」
「そうだな。支度してくる」ミシュエルがソファから立ち上がると、カップを洗っている千奈津が「ミシュウ。この前みたいに目立つ格好しないでよ。あの時は写真を撮られて、ネットにアップされる寸前だったのを、かろうじて止められたから大事にならなくて済んだけど、次はアウトだからね」
「ああ、あれはちょっとやばかったな」シラッと言うミシュエル。
「ちょっとじゃないでしょう! 騒ぎになったらペナルティが付くんだよ! いいの!」
「よくない」
「じゃあ、外へ出るときは十分! 注意してよね!」
「……わかった」とりあえず返事をするので「チィ、今日は僕が一緒だから、無謀なことはさせないよ」
「そうだね。任せる」