7 契約開始
「実は……」アーモ君と出会ったときのことを話すと「ああ、追い駆けてた男子たち、知ってる。北条高校の悪グループでしょう?」と長身が話しだす。「なんでも最近きた転校生が中心となって、孤立してる生徒を引き込んでるって噂だよ」
「ヘェ、そうなんだ」
「自信を付けるためにいろんな事にチャレンジしてるって言い訳してるみたいだけど、他人に迷惑かけたらダメだよね」
「それ、言えてる」同意するアイドル好き。
「でも、孤立してる生徒の居場所になってるんじゃない?」
「あやねはいつもそうやって同情するんだから。前向きな理由で活動を始めても、他人に迷惑かけるようになったらダメでしょう」長身が窘めると「まあ……そうだよね」
「そうだよ」
「でも、もしかしたら、真面目に取り組んでるかもしれないよ」
午後五時二十分。
早めに部活を切り上げたあやねは、約束どおり駅には向かわず、ネイルサロンにまっすく来ていた。
ベルを鳴らすと少ししてドアが開き「いらっしゃい」千奈津が顔を出す。「今日は最初から意識あるね?」
「はい。大丈夫です」
「よく我慢したね」
「……約束ですから」
「予定時間よりもちょっと早いけど」
「いつも、少し早目に着くようにしてるんです」
「いい心掛けだね」
「待たせたくないから」
「そっか。さあ、どうぞ」
「お邪魔します」
靴を脱いで部屋に入ると「じゃあ、荷物置いたらこっちの椅子に掛けて」ネイル用の白いテーブルの椅子を指定する。
「あ、こんにちは」
ペディキュア用のソファに座り、A4版の白いバインダーを開いて、中の書面を読んでいる金髪のスーパーモデルかもしれない外国の女性に挨拶すると「ネイルが終わったら、今日からの行動について説明するから、終わっても帰るな」
「あ、はい」
「さあ、これがあやねちゃんのネイルだよ」
千奈津が、見本のネイルチップが置かれたプレートをテーブルに置く。
「ネイルの説明をするね。
あやねちゃんの誕生日、九月十九日の誕生日石はサファイアだけど、あやねちゃんはまだ十代だから、ゴールデンサファイアというイエローサファイアをチョイスしたの。
しかもスターサファイアだよ。
光の当たり方で、星のように三本の線が入っているように見える希少な石のこと。
この三本の線は「希望」「運命」「信頼」という意味があって、この力を強めるために、ラッキーアイテムのハートをラッキーカラーのパープルで補強。
さらに、ラッキーフラワーが小さな花ということだから、エネルギーが強いハーブの中でも香りが爽やかなディルをチョイス。
あやねちゃんは学生だから、スターサファイアの模様は自分の意思を貫く意味の人差し指に、補強のハートとディルは目標である恋人の指の小指に。
そのほかの指は、イエローを薄くした色で全体の調和を整えたの」
「このスターサファイア、きれいですね」
「気に入った? 宝石ネイルっていうんだよ」
「そうなんですか。いろんなネイルがあるんですね」
「まあね。開発する人がいるから。じゃあ始めようか。まずは右手から」