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アーモのネイルサロンへようこそ  作者: 夏八木 瀬莉乃
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50 過ぎ去った後

 

 結局、ミシュエルは一週間たってもネイルサロンに戻ることはなく、アモニスも予告どおり、ネイルサロンから引き揚げていた。


「なんか、寂しくなっちゃいましたね」毎日剣道の練習後、ネイルサロンに来ているあやね。

「静かになったから、それはそれでゆっくりできるんだけどね」と言いつつ、寂しそうにしている。


「剣道の練習はどう? 来週末が県大会でしょう?」いつもの紅茶を持ってくるので「はい。今、追い込みに入ってます」お礼を言ってカップを受け取る。


「セイジツ君たちが応援に来てくれるんだよね?」スチールの椅子を持ってきて向かいに座ると「そうなんです。アーモチーフが言ったとおりすぐ良くなって、疲労困憊(こんぱい)してたのに、三日で体力が戻って退院できるなんて不思議だって、担当の先生が「なんで? なんで?」って、呪文のように言ってておかしかったって、言ってました」


「ナンデマンだな」

「アハハハッ! 千奈津さん、面白いこと思い付きますね」

「こういうことは得意なんだ」

「そうなんですか?」


「じゃあ、県大会で優勝したら、ここで優勝パーティやろうか」

「いいんですか! 友達もここに来たがってるので、連れてきていいですか?」

「もちろんいいよ。そのためには、優勝しないとね」


「任せてください! 大会三連覇! 取ります!」

「おおっ、それは頼もしい。じゃあ、準備しとくから、残念会にならないように、練習頑張ってね」

「はい!」



 しかし、ミシュエルは県大会当日までネイルサロンに戻ることはなく、この頃にはあやねたちも意識が大会に向いていて、毎日応援に来ているセイジツ・桧山、先崎は母親の世話が終わった後に来て、帰りにたこ焼きを食べることが日課となっていた。


先崎は、誰が申請したのかわからないが大学までの奨学金が出ることになり、高校を辞めなくて済むことになっていた。


「いよいよ明日が大会か」あやねの向かいに座っているセイジツが、たこ焼きにマヨネーズソースを掛ける。


「陸上の県大会は来月でしょう?」その一が確認すると「来月の第二土曜日だよ」

「今度は私たちが応援に行かないとね」

「ねじり鉢巻きで応援してしんぜよう」

「その二。江戸時代に戻ったの?」呆れるあやね。「久しぶりに聞いたわ」


「これがないとね。なんか物足りないっていうか」

「その三。感覚がおかしくなってるよ」

「そう? やばいかも」


「案ずるな、その三」

「昨日、何を見たの?」


「その二って面白い奴なんだな」大笑いの先崎。「年齢二百歳かって言われるぞ」

「まだ十六年しか生きておらんわ」

「アハハハハハッ! 絶対中身は武士だよ!」


「恥ずかしいよ、その二」

「その一が普通になってしまったのが悲しい」


「エッ! その一も武士やってたの!」桧山が目を丸くするので「……ま、まあ、ね……」

「俺たちも人のこと言えねえけどな」先崎がセイジツを見るので「桧山が一番面白いものマネしてたじゃん」

「セイジツ! バラすなよ」


「……おもしろいものマネをしてた?」その一が探るように桧山を見ると「まあ……似た者同士ってことでいいじゃん」

「……うん」


「あ~~~~~、ここだけ別世界入ってるよ~~~」その三がやっかんで揶揄(からか)うので「その三も、早く別世界に入るための相手を探せよな」反論する桧山。


「同士その二、二人で孤独に浸ろう」

「我が同胞。捨てはせぬぞ」

「類は友を呼ぶって実感中」解説を終了するあやね。


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