1-1 はじめましては
特進大学付属旋律高校体育館。
「剣道部! 今日の練習はここまで! あと片付け忘れないようにね!」
「はい!」
「あやね。県大会前だから気合入ってるね」
「連覇がかかってるからね。気を抜けないよ」
「そんな心配いらないよ。あやねより強い選手なんていないじゃん」
「いつか出てくるライバルのために、腕は磨いておかなきゃ」
「さすが優勝校の剣道部主将! そこら辺のボンクラ男子よりカッコイイ!」
「やめてよ」
「こんなに強いのに、防具を脱ぐとお嬢様顔が出てくるんだよね」
「このギャップがたまらないわ!」
「褒めてない」
「さあ、早く着替えて帰ろう。お腹空いたよ」
「そうだ、帰りにたこ焼き食べようよ」
「ああ、ごめん。私はパス。ちょっと用事があるんだ」
「また? あやね、最近付き合い悪いよ」
「ごめん。また今度さそって」
「華河先輩、お先に失礼します!」
「はーい、また明日ね!」
「あやね、明日はタコ焼き、付き合いなよ」
「考えとく」
「何それ! 今度おごらせるぞ!」
「おお、怖い」
校門前で別れて腕時計を見ると、午後六時を回っていた。
「やばい。今日はちょっと遅くなっちゃったから、急がないと」
最寄り駅へ続くメインストリートへ向かって住宅街の道を走っていく。
その途中、どこからか甲高い犬の鳴き声が聞こえてくるので足を止めた。
「ワンワンワン!」
「何かしら? 追い回されてるみたいに聞こえるけど」
しばらくその場で様子を伺っていると、犬の鳴き声と一緒に声が聞こえてきた。
「ワンワン! ワンワン!」
「待て! 早く捕まえろ!」
「ちっこいくせに、すばしっこいな!」
「そっちに追い込め!」
声の感じから数名の少年らしい。
「ワンワンワン!」
突然、少し先の横道から鳴き声の犬が飛び出してきた。
「エッ! ミニチュアダックス?」
「ワンワン!」犬は一直線に駆け寄ってくると、後ろに隠れる。
「待て! あ、いたぞ! 捕まえろ!」
あとから高校生数名が飛び出してくると、周りを取りかこむ。
「エッ! ちょ、ちょっと、あなたたち誰?」
「ワンワン!」足元から見上げるのでしゃがむと「その犬は俺たちのだ。返せ!」捕まえようと犬に手を伸ばす。
「ちょっと待って。本当にあんたたちの犬なの? 嫌がってるよ」
「ワン!」
「いいから寄越せ! じゃないと痛い目に遭うぞ!」
「痛い目って、なに?」犬を抱き上げるとムッとして言い返す。
「おい、待てよ。こいつ知ってるぞ。たしか、この先の旋律高校剣道部の主将だ」
「エッ、それって、県大会二連覇してる、華河とかいう主将か?」
「あら、私のこと知ってるの?」
「やべえ、ケガさせたら俺たち退学だぞ」
「相手が悪いぜ。行こう」バツの悪い顔をして渋々引き上げていく。