1-1 はじめましては
特進大学付属旋律高校体育館。
都心から急行電車で四十分、何本もの電車が乗り入れている商業地にあるスポーツ進学校。
いろんなスポーツの有名人を輩出している有名校。
平日の午後五時半。
部活の区切りとして学校のチャイムが鳴ると「剣道部! 今日の練習はここまで!」 一年生! あと片付け忘れないようにね!」
「はい! ありがとうございました!」一年生が主将に向かって頭を下げる。
「あやね。県大会前だから気合入ってるね」正座をして防具を脱ぐ長身の同級生が、汗を拭きながら声を掛けてくるので「連覇がかかってるからね。気を抜けないよ」主将が笑顔で答える。
「そんな心配いらないよ。だって、あやねより強い選手なんていないじゃん」小柄な別の同級生がぶっきらぼうに言うので「そんなのわからないよ。もしかしたら、次の試合に強敵が出場してくるかもしれないからね。それに、いつか出てくるライバルのために、腕は磨いておかなきゃ」
「さすが優勝校の剣道部主将! そこら辺のボンクラ男子よりカッコイイ!」アイドル大好き、元気いっぱいのもう一人の同級生が、推しを応援するように黄色い声を出すと「やめてよ! 恥ずかしい」
「こんなに強いのに、防具を脱ぐとお嬢様顔が出てくるんだよね」長身の同級生が顔を覗き込むと「このギャップがたまらないわ!」アイドル好きが、また黄色い声を出すので「……褒めてない」
「ほら、早く着替えて帰るよ。お腹空いた」小柄でぶっきらぼうな同級生が、防具を片付けはじめると「そうだ、帰りにたこ焼き食べようよ」急いで胴衣を畳みながら、アイドル好きが提案する。
「ああ、ごめん。私はパス。ちょっと用事があるんだ」
「また? あやね、最近付き合い悪いよ」不機嫌になる長身同級生。
「ほんと、ごめん。また今度さそって」
制服に着替えて校舎から出ると「華河先輩、お先に失礼します!」一年生が声を掛けてくるので「はーい、また明日ね!」
「あやね、明日はタコ焼き、付き合いなよ」長身同級生が約束を取り付けようとすると「考えとく」
「何それ! 今度おごらせるぞ!」小柄なぶっきらぼうが詰め寄るので「おお、怖い!」とお茶らける。
「推しがいないとつまらないよ」ストレートに文句を言うアイドル好きに「ほんと、ごめんね。どうしても外せない用事があるんだ」
校門前で別れて腕時計を見ると、午後六時を回っていた。
「やばい。今日はちょっと遅くなっちゃったから、急がないと!」
最寄り駅へ続くメインストリートへ向かって住宅街の道を走っていく。