第九話「砂漠姫」
九話「砂漠姫」
私達は都市デルタから徒歩で南へ向かい、目的地である砂漠の街「デザータム」へと到着した。
さすがにケロちゃんが私達の横を歩くと目立つため、街の付近には水源となるオアシスでケロちゃんを待機させた。
私、リツカとルーミで街を歩き回ることにした。
街はかなり発展していて、しっかりと舗装された道にレンガでできた家の数々、そして極め付けは中央にあるバカでかい城である。デルタには負けるがしっかりとした都会であった。
「いやーデザータムすごー!すずしー!さいこー!」
「ちょっと!ここにも軍の兵士はいるんだから、目立たないようにね!」
ルーミは初めて訪れる街に思わずはしゃいでいた。私もこんな警戒しながら街を歩きたくは無いものだ。
「これからどーしよっかー?」
「とりあえず買い物しながら情報収集かな」
私達はなんと言っても食料や日用品が圧倒的に足りないのだ。街で買い込むしかない。
そしてデパートを見つけたのでそこで買いたいものを揃えることにした。
「すごー!すずしー!デパートさいこー!」
「他人のフリしよ…」
道具屋に入ると、傷薬や魔力補給のポーションなどを手に取り、会計に向かった。
「これとこれ、お願いします。」
「はい、5000ガルドね」
「えっ?500ガルドとかの間違いじゃなくて?」
「5000ガルドね。耳悪い?お嬢ちゃん?」
このクソジジイの接客態度は置いといて、風邪薬とポーションで5000ガルドは高すぎる。相場はやはり500ガルドだろう。
「どーしたのー?」
何も知らないルーミに説明した。
「ふーん。どーなってるんだろー?」
「知らないのかい?旅人の嬢ちゃん達」
横からおじさんが話しかけてきた
「知らない!教えて!おじさん!」
「しょーがないねぇ!最近ウネウミヘビが現れて、他大陸との貿易ができなくなったんだよ」
デザータムでは船で他大陸との物々交換が行われている。そうやって街は発展していったのである。しかし、その貿易が海に生息するウネウミヘビにより、ストップしているということであった。それに合わせて売り物の供給が間に合わず、どの店も値上げを余儀なくされたという事だった。もちろんこの街の兵力を持ってウネ(略)を倒しにかかったが、地の利もあるため、全く歯が立たなかった。ということらしい。
「ウネちゃんめー!ゆるさん!!」
「ウネちゃんって…」
「嬢ちゃん達、見たところ冒険者かい?」
「はい。そうです。」
「いま城で冒険者を選抜して討伐隊が作られているところなんだ」
うーん、城に出向くのはなあ…
「なんと討伐隊に参加して功績を上げると、船が一隻貰えるらしいぞ!」
「え、ええええ!!」
思わず驚いてしまった。船って、あの船だよね?
人々を乗せながら海を自由に旅できるやつだよね?
それが貰えるの!?
「どうする?ルーミ」
「目立つのはチョイまずいよねー」
「でもウネを撃退した後で、この不景気がすぐに良くなるとは思えない。船に乗るのもかなりお金が必要になるよ」
「行こー!リツカ!」
「えっ?」
「行こー!耳悪い?嬢ちゃん?」
先ほどの道具屋の受付と同じ事を言い放ったルーミは今晩くすぐり1時間の刑に処すことが決定した。
私達は結局、冒険者の選抜を受ける事にした。選抜内容はわからないが、城で行うようだ。
冒険者選抜を受けると伝えるとバカでかい城の門を兵士に開けてもらってスルスルと入ることができた。
そして謁見の間まで案内された。
謁見の間は、赤いカーペットが床一面に広がり、この室内の両端には、無数の兵士が整列していた。
「すごー!すずしー!城サイコー!」
この状況で呑気に過ごせるルーミの心臓にはきっと無数の毛が生えてる
私達の正面には高級そうなイスが2つ並んでおり、王ともう1人王の子らしき女性が座っていた。歳は私たちと同じくらいだろうか。
2人ともかなり冷たい表情をしており、目はまるで生気がないかのような印象であった。
「カイサ、やれ」
「はい。殿下」
カイサと呼ばれた王の子らしき女が立ち上がった。
そういえば服装はドレスをきておらず、黒のハーフパンツでベルトには魔法銃2丁をこさえていた。
その直後、カイサは魔法銃を2丁とも腰のベルトから抜き出すと、リツカとルーミに向けて発砲した。
私はその姿と「やれ」の合図から察して、キョトンとしたルーミを抱えて銃弾を回避した。
「ちょっとー!危ないじゃんー!」
私に降ろされたルーミが言い放った瞬間に、カイサはルーミの至近距離まで迫っていた。
「こっちのバカは不合格だ」
カイサは迷いもなくルーミに発砲した
「こ、こんなテストで、至近距離から発砲するなんて!」
驚く私であったが、ルーミに向けられた銃弾はルーミの手前で止まっていた。
「魔力障壁、この部屋に入った時から展開してたからー、ルーミは避けるひつよーなかったんだけどなー」
ルーミの能天気そうに見えて案外しっかりしてるとこに少しギャップを感じて良い。少しだけね。
「殿下、2人とも合格です」
「冒険者リツカ、ルーミ、明日のウネウミヘビ討伐に参加せよ」
なんかよくわからないけど、選抜には選ばれる事になった。
「ははー!!」
ルーミはわざとらしく床に膝をついて手を真上に上げるとゆっくり床へと下ろした。本当に恥ずかしい。
それにしてもこのルーミの態度に誰も反応がない。王も兵士もみんな無表情で無機物かのような挙動のなさであった。
そう考えているとカイサが近づいてきた。
「ついてこい」
そう言ってカイサと私達は謁見の間を後にすると、カイサの後をついてしばらく歩いた
「入れ」
こわいいいい!なんか個室みたいなとこに案内されてるんですけどおおお!このカイサの表情もプラスして怖すぎる!!まさしく砂漠のように枯れた姫って感じ!
「しつれーしまーす!!」
内装を見るにデスクと、ベッド…普通に誰かの部屋って感じのとこに案内された。
(カチ)
この音はカイサが部屋の鍵を閉めた音であった。そう、私達は閉じ込められた。
本当に怖すぎる。これから殺されるんじゃないだろうか
私は戦闘体制に入り様子を見る事にした。
さすがのルーミも少しずつ戦闘体制に入ってきた。
10秒くらい沈黙が続くと、カイサは魔法銃を床に投げ捨てた。
「「えっ?」」
「お前達は船を手に入れ、何をするつもりだ?」
「えっと…別大陸に渡りたいなって…」
まあここは正直に質問に答えたほうが良さそう
「……くれ」
「え?」
「わたくしを!その旅に連れてってくれ!ですわ!」
それはそれはもう、初見の印象とは真逆の明朗快活な少女の声でした。
fin