第七話「逆転の兆し」
第七話「逆転の兆し」
「あう!!はぁ...はぁ...」
最悪だ。生きた心地がしないという言葉の意味が今わかる気がする。
どうも私、リツカは、今ボコボコにされています
デニスに気絶させられた後、軍に連れて行かれたようだったけど、暗い牢屋で目が覚めたら全裸にされてて、身体のあちこちを殴られていた。もう最悪。
「きひひひ、楽しいなあ。こういう若い女をいたぶるのが楽しいんだよなあ」
私をボコボコにしてくれているのは、この出っ歯のよくわからないおじさんです
軍の人なのは間違いないけど、趣味が悪すぎる。
「きもいよ、おじさん」
「ん?なんだって?」
「はぅ!!....ぁ....ぁぁ...」
おじさんの拳がリツカの鳩尾に突き刺さる。リツカは激痛とこみ上げる吐き気に耐え切れず涙をこぼす。
このおじさんがなぜこんなことをしているのかと言うと、私と同じ力を使える仲間を知っているか聞きだそうとしているのである。
「きも...ほんとに知らないのに...」
「君が仲間のことを知っていようがいまいが関係ないのだ。私はいま、君の肉を潰すことだけを考えているのだからな」
「友達いないんだね....あうっ!!」
今度のおじさんの拳は確実にリツカの胃を一点集中で潰していた。
「うぷ...おえ....」
リツカはたまらず、こみあげてくる胃液を口から吐き出した
「ふむふむ、まだ余計なことを喋ることができるのだ。」
「もうそれくらいにしておけ」
おじさんはびっくりして声のする方を向くとすぐさま膝をつき敬礼をした
「はっ、ははっ!」
私は満身創痍の中、奥から現れた男を見つめた
「あんたは...だれ...?」
「デルタ軍幹部、マルセイ・ルーレットだ」
マルセイと名乗った男は確かに偉そうな恰好をしていて、このおじさんよりもまるちゃんよりも品もありそうだった。
「貴様のことは調べさせてもらった。どうやら他の仲間の存在は本当に知らないようだな。」
「だから、知らないって...何度も言ってんじゃん...」
マルセイは歩き出し、私の目の前まで来た。
「私は、家族全員を魔物に殺された。そして決めたのだ。軍属となり、狂変病を広める最厄の子を根絶やしにすると...」
喋りながらマルセイは握りこぶしをつくり、手を震わせた。
「これまでに...捕まった最厄の子は...みんな殺してきたんだ?」
「ああ、当たり前だ」
「私たちが、狂変病を広めていないとしても?」
「そんなことはありえない!現に君の村でも狂変病が発生したじゃないか」
確かにそうだ。でもその後に黒づくめの男が出てきた。どういう原理で狂変病が起きたのかわからないが、明らかにそいつの仕業だ
「君とはおしゃべりをしに来たわけじゃない。明日君の公開処刑を行う。それを伝えに来た。ではな」
「そうやって平気で人を殺すんだ...魔物とあなた...なにが違うの?」
私はもう人生を諦めてしまったのか、この男にも挑発を入れてしまった
マルセイは振り向くと同時にリツカの鳩尾を殴りつけた
「かは!!げほ!!げほ!!」
マルセイの放った拳は、このきもいおじさんの比ではなかった。
リツカは目を完全に見開いたまま、大きく口を開け、そこから血が吐き出された
あまりに強烈なダメージから内臓出血を起こしたのだった。そしてすぐさま気絶してしまった
「ふん。今死んでは面白くない」
マルセイは治癒術をリツカにかけて、その場を後にした。
「リツカ」
「お、父さん...」
なんだろうここは...真っ白な世界に私とお父さんだけが存在していた。
ここは天国なのだろうか
「リツカ。本当にすまなかった。こんな使命を背負わせてしまった父を許してくれ」
「い、いいの!私が決めたことだから。でもごめん。無理だった。」
「仲間を、探すんだ。各地に散らばった仲間を...」
「む、無理だって!もうつかまっちゃった...」
リツカはうつむいた
「隣の大陸、サークル大陸に行くんだ!リツカ!」
そういうとお父さんは消えていった。
「お父さん!お父さん!」
数時間後
「ん...」
私はまた気絶していたようだ。目を開けると、広い牢屋の中だった。
他の囚人と同じ牢屋にされたようで、その囚人が驚いたようにずっとこちらを見つめていた。そして可愛らしい顔つきのショートヘアの女の子だった
「ねえ!名前は?」
その女の子は瞬時に距離を詰め、話しかけてきた、なかなかできる
「リツカ。あなたは?」
「ルーミ!よろしく!」
よろしくって言ってもなあ...明日までの友達か...
「ねー、ルーミと組も?」
「く、組むって...いっつ!」
突然腹部が痛み始めた。まああれだけ殴られれば当然か
「どうしたの!みせてー!」
ルーミは私を寝かせると、上半身をおもいっきり剥いだ、大胆だ
「めっちゃ腫れてるじゃーん!なにされたのー!?」
「ちょっと色々遊ばれちゃって...」
ルーミは手を光らせ、治癒術を発動した。
痛みが消えていき、ある程度まで治った
「うーん、骨までは繋げないなー」
「大丈夫、ありがとう。治癒術が使えるなんてすごいよ!ルーミ」
腹部の痛みや腫れは引いたが、肋骨の骨折箇所は治せなかったようだ。となると無茶をするとやばいかもしれない
「それで、組むって?」
「あー!一緒に協力して脱獄しよーってこと!」
めっちゃ明るく喋ってるけど、見張りいたらどうするのだろうか
「なにか、考えはあるの?」
「うん!まっかせてよー!一か月ここで過ごしたんだから!」
一体この純粋そうな子が何をしでかしたのかは置いておくとして、脱獄できるなら、やらない手はない。肉体的にも精神的にもボロボロだったが、希望が見えて前向きになった。この子に賭けてみることにしよう
「一緒に出よう!ルーミ!」
「うん!」
私たちは手をつないだ。その時ルーミの手から、どこか懐かしい感覚になった。
「え?」
「どーしたのー?」
「いや、なんでもない」
ルーミは突然鉄格子を触り始めた
「みててー」
鉄格子が3本溶けていき、簡単に出ることができた。
「すご!」
「ふふーん天才魔術師ルーミ様と呼んでねー!」
二人は牢屋を出ると、辺りを警戒しながら脱出経路を探した
「この時間はねー警備が入れ替わりのタイミングで15分くらいいなくなるんだよねー」
「へぇ。さすが天才犯罪者」
「ちょっとー!ひどーい!」
すると階段から人の足音が聞こえてきた。
「よーし。警備が二人来るから、気絶させちゃおー」
「おっけー任せて!不意打ちなら素手でも勝てる!」
二人は階段の手前で左と右に分かれ、待ち伏せをした
「最厄の子、くそかわいそうだったな」
「なぁ、まだ子供なのにあれだけボコられんのやべえわw」
「今から顔を拝めるぜ」
「ちょっと遊んでもいいよな?最厄の子は人権ねえらしいぞw」
「だな、やっちゃおうぜ...ぐは!!」
リツカは一人の兵士の首を180度回し、気絶させた
ルーミはもう片方の兵士に高電圧を浴びせ気絶させた
「えっぐーリツカー首の骨折ったんじゃないのー?」
「ルーミこそ、心臓止めたんじゃない?」
あいつらの会話に腹が立ち、少し強めにやってしまった。あの人は目が覚めても首より下はもう動かせないかもしれない。まあいいや
私たちは鎧を奪うと、兵士に成りすました。雑魚兵は顔までしっかり隠れるヘルメットをかぶっているからありがたい。しかし鎧臭い!
「さて、これからこの軍本部内で色々ちょーたつしよー」
「調達?」
「脱獄したお尋ね者が手ぶらじゃ生きていけないでしょー?だから色々盗んでいくのー!」
おお、考えることがやはり犯罪者っぽいけど、言ってることは間違っていない。今後を考え、できるだけ資金や物資を頂いていこう
そして軍本部をしばらく歩くと、兵士宿舎にたどりついた
「よーし!うばおー!リツカしばらく周り警戒お願いー」
「おっけー」
ルーミはなにもない空間からバッグを取り出すと色々なものをつめこみ始めた
色々な人の物を奪ってごめんなさい
「す、すごいね。なんでもできるじゃん」
「ふふーん!」
ルーミは満足したのかバッグを渡してきた
「好きなものなんでも入れていーよー。でも変なものはやめてよねー!」
「わかってるって」
色々探し回った結果、自分用の剣と盾を装備し、女性兵士の下着や服を選んだ
本当にごめんなさい
ルーミの元に戻ると、すぐさまバッグを空間に隠し、その場を後にした
この後、物置などにも周り、色々強奪した
そして出口に向かって歩いていた時
「おーい、そこの兵士たちー」
やばい!まるちゃんだ。私が声を出すとバレちゃう
「なんですかー?」
ルーミが返事をする
「なーんか怪しいんだよね君たち。」
やはりまるちゃんは腐ってもエリート。天性の勘で私たちの少しのぎこちなさを感じ取ったのだ。
「え、なんでですかー?」
「だって、怪しいですって雰囲気、出てるよ?」
「そ、そんなー」
あまりにも的を射ているので、ルーミはたじろいでしまった
まるちゃんは瞬時にルーミに近づいた
「はや!」
ルーミはすかさずバックステップした
「ふーん、並みの兵士じゃないね。君」
他の兵士たちが私たちに注目し始めた
そしてまるちゃんは私の方を向いた。
「ちょっと、鎧脱いでくれる?」
「ちょ、ちょっとーセクハラですよー!」
ルーミがまるちゃんにツッコミを入れるようなしぐさをする。
その瞬間まるちゃんは剣を抜き、ルーミを切り裂いた
「きゃあっ!!」
ルーミは綺麗に鎧だけが切り裂かれ、囚人服のルーミが露わになった
「君は...」
「ば、ばれちゃった...」
つまり、鎧を着ている私も完全に黒なのが発覚した。
もう仕方ないので、重い鎧を一気に脱いだ
「リツカ...!」
まるちゃんは私を見ると完全に動揺して、動きが止まった
その隙にルーミを抱え、走った。
「おおー!かっこいー!リツカー!」
「なんでまだ無駄口叩けるの!?」
「き、貴様ら!囚人か!」
他の兵士たちがめっちゃ追ってくるが、私の足についていける兵士はいなかった
そういえばまるちゃんは私が捕まったことは知っていたのだろうか。あれからどれだけ時間が経ったのかもわからないので、まあ考えてもしょうがないか
こうして、私たちは軍本部を脱出したのだった
そしてルーミを降ろして、私はシュナイゼル家に向かった
「リツカ!どこいくのー!?」
ルーミもついてきたが、気にせずにシュナイゼル家に入った
「きなこ!」
急いで帰ってきた私に反応してすぐさまサーシャさんが現れた
「へ?きなこ?」
ルーミはきょとんとしていた
「さ、サーシャさん!私は!」
私は泣きそうになりながら本当のことを言おうとした。短い間だったが、サーシャさんが生まれて初めてのお母さんのようだったのだ。かなり悲しかった。
サーシャさんは私の口を指で止めると、着替えと1万ガルドの入った袋を渡してくれた。
「いってらっしゃい、きなこ」
サーシャさんは何も聞かず、ただ子供を見送る母のようにやさしい顔を浮かべてくれた。私はおもわず泣いた。泣くしかないよ。こんなの
「ありが...とう...お母さん...」
サーシャさんは泣く私を抱きしめてくれた。
「わん!」
庭でシュナイゼル家の番犬達の親分になっていたケロちゃんは、何となく状況を理解しているようで、一緒についてきた
「ケロちゃん!一緒にいこ!」
「バウワウ!」
ほどなくしてルーミと私は都市デルタを出た。
「ここでお別れだね。ルーミ」
「え?なんでー?」
「私は最厄の子。全世界を敵に回している極悪人なんだ。だから、ここでお別れ。」
ルーミも軍から追われる身ではあるが、最厄の子と一緒にいては捕まるリスクも跳ね上がるだろう。それに一緒には居たくないはずだ。
「組もうって話、まさか脱出までの間だと思ってたのー?」
ルーミはむすっとした
「最厄の子だよ!?いいの!?」
その時茂みからウルフが現れ、襲ってきた
「いーの!だって私も!」
ルーミの全身が光り出した。
「え?」
私は呆気にとられてしまった
「ホーリーバインド!」
ウルフが浄化され、元の犬の姿に戻った。
「だって私も!リツカと同じだもーん!」
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仲間ステータス
リツカ レベル16 Dランク
戦闘スタイル:剣士(熟練度50)体術(熟練度35)
スタミナ:540
魔力:80
物理攻撃:240
物理防御:120
魔法攻撃:75
魔法防御:230
俊敏:350
反応:300
ルーミ レベル16 Dランク
戦闘スタイル:魔術師(熟練度50)
スタミナ:400
魔力:200
物理攻撃:80
物理防御:100
魔法攻撃:250
魔法防御:250
俊敏:200
反応:150
ケロちゃん レベル15
戦闘スタイル:爪(熟練度50)
スタミナ:350
魔力:150
物理攻撃:200
物理防御:100
魔法攻撃:200
魔法防御:100
俊敏:400
反応:250