第五話「情報収集と冒険者」
第五話「情報収集と冒険者」
私、リツカとマルベールとケロちゃんは、都市デルタにたどり着き、私はまるちゃんの婚約者きなこを演じながら、しばらくシュライゼル邸を拠点として暮らしていくこととなったのであった。
シュライゼル邸のディナータイムを終えて、私はすぐさま、庭にいるケロちゃんの元に駆け付けた。
「ケロちゃん!ごめんね。おいてっちゃって」
「わん!」
「ほら、ご飯貰ってきたから」
ケルベロスは肉食っぽいので、こっそりまるちゃんから肉をもらってきた。
てかケルベロスについて理解が浅いので明日勉強しよう。
「わん!!わん!!」
肉を食べたケロちゃんはめちゃくそ上機嫌だった。まるちゃんの婚約者だし、この口調だとやばいかな?めちゃくそ上機嫌でございますわ~?でいこう
「世界を救うって言ったけど、デルタを見てると微塵も危ない感じしないなぁー」
「わんー?」
そう、この都市デルタには軍による厳重な警備があり、凶変病の人が出たら即座に軍が対処。この都市に問題など残っているはずはないのである。
つまり私がここでやることは二つ
一つは情報収集。都市デルタの探索、自分の浄化能力について、凶変病について、各地の凶変病についての問題、ケルベロスの生態について、凶変病の裏にいる黒幕についてなど。調べたいことは山ほどある。
もう一つは資金調達だ。各地を歩き回り、浄化をしていくということは、いずれここを旅立つ時が来る。長旅の準備のためにもお金を稼がなければならない。まるちゃんにお願いすれば少しは援助金がもらえるだろうが、そこまで頼るわけにはいかない。
まあ明日はとりあえず都市デルタを探索しながら情報収集していこう。
「それじゃ、おやすみ。ケロちゃん。明日は散歩だよ!」
「わん!」
そして寝室に行くと
「よう、きなこ。寝ようぜ~」
「なにしてんの...」
シュライゼル邸の一室を貸していただいたわけだが、その私の部屋にまるちゃんがいた。しかもベッドの上で寝そべっている。
「一緒に寝ろってお母さまがうるさくって!あなたたち婚約者なんだからできるでしょ!って!」
「さすが...見透かされてるなあ...」
「ここまで来たら引き下がるわけにはいかないから、頼むよーきなこー」
まるちゃんのこの態度には少しイライラさせられるが、仕方ない。ご飯も寝るとこも用意してくれているのだ。我慢しなければならない。
「はぁ...しょうがないなぁ。ベッドは広いし、一緒に寝よ。変なことしたら刺すからね?」
「しないよーそこは信じてよ?」
多分信用できる。この男、肝心なところで嘘はつかない...気がする。
一応ベッドの横に剣を置いて寝ることにした。
翌日
朝、目が覚めると、まるちゃんの姿はなかった。
ササキサ村に居た時はいつも暇そうな顔して、のんびり起きてたイメージがある。軍本部がある都市デルタともなると忙しいのだろうか。
とりあえず私は顔を洗い、歯を磨いて、食事部屋に向かった。
そこには、お母さまと、まるちゃんがいて、まるちゃんはもう鎧を着て出る寸前だった。
「お、ねぼすけさんの登場だ。それじゃ行ってくる!」
「行ってらっしゃい」
「い、行ってらっしゃい!」
やっぱりまるちゃん、早い出発だ。まだ七時だというのに。
「おはようございます。お母さま。」
「サーシャよ。お母さまはやめて頂戴。」
「す、すみません。サーシャさん。」
お母さま呼びはやはりだめだったらしい。てかお名前今まで教えてくれなかったじゃん!!
というわけで、豪華な朝食を楽しんだ私は、ケロちゃんにご飯を与え、デルタの散歩に繰り出した。ケロちゃんは犬としてリードにつないで一緒に歩いている。
一時間散歩してデルタをだいたい一周した。デルタは大まかに貧民層、富裕層、娯楽層、冒険者層、軍本部、といった地区に分けられている。
デルタが円形の都市で、中央に軍本部、北に富裕層、東に商業層、南に貧民層、西に冒険者層といった感じだ。シュライゼル邸はもちろん富裕層に位置し、豪華な服を着た私が貧民層に行った時は、色んな人からじろじろ見られたもんだ。
軍本部には軍人しか入れないし、貧民層にも行く用事はなさそうだったので、商業層をもっとしっかり見て回ることにした。
商業層は名前の通り、商業が盛んな場所だ。都市だけあって様々なものが売られている。そして図書館があったので、とりあえずそこに入ることにした。
入館料として100ガルドを払うことで、図書館内にある本を全て自由に読むことができるという仕組みだ。
お父さんからもらった1000ガルドがあるので、手持ちが残り900ガルドとなった。
そしてケロちゃんには申し訳ないが、外で待機してもらった。
さて、図書館に入ったけど、何から探そうか。
ちょうどケルベロスの本があったので読むことにした。
本の内容を全て読むと尺的にも長くなってしまうので新しく分かったことだけ短くまとめるとケルベロスは
・人間と同じ雑食で好き嫌いもある
・人間の言葉を理解している
・温厚で過去に人と暮らしていた話もある
・今では凶暴なケルベロスが現れたため、害獣指定もされている
という感じだった。
雑食ということなので、これからケロちゃんにはディナーを丸々あげよう。
それにしてもかわいそうに、凶変病のケルベロスに誰かが襲われ、害獣指定されたってとこだろう。私と似たような感じかも
最厄の子についての本も見つけた。
最厄の子は、全身を光らせることで、この世に凶変病を広める原因であり、軍は総力を挙げて、これを逮捕、その後、処刑する。一般人が逮捕に協力した場合、軍から100万ガルドが贈呈される。
うっわ、ひどすぎる。色んな人が読む本がこの調子だと、やっぱり全世界が敵なんだと実感させられた。
冒険者についての本も読むことにした。
一般民は、基本的に町や都市などの軍の管轄から外に出ることを禁止されている。(魔物や動物に襲われるため)
一般民が外出する権利を持つために冒険者制度と言うものがある。各地の冒険者センターで冒険者登録をして、冒険者となった者は冒険者カードに自身の能力が数値化される。その能力に応じて、レベルが上がっていき、レベルが上がっていくごとに、冒険可能エリアが広がっていくのである。
もし、冒険不可能エリアへの侵入がバレた場合、逮捕もしくは無期懲役となる。
なるほど、つまり冒険者になったほうがいいってことか。てか自分の能力が数値化されるのってなんか楽しみなんだけど!!
私のこの浄化能力についてと、各地の問題については図書館では情報を得ることはできなさそうなので、図書館から出ることにした。
どうやら冒険者になったほうがこの先よさそうなので、続いて、冒険者層に行って、冒険者登録をしよう。
冒険者センター
うっわ、めっちゃ人がいる!全員冒険者なのかな?ワクワク
こうして私は冒険者センターに入った。ペット同伴可能らしい。
センターに入るや否や、周りからジロジロとみられてしまう。
もしや貴族っぽい人が冒険者センターに来るのは珍しいのか?
「よぉ、お嬢ちゃん。ここは貴族が来るような神聖な場所じゃねえぜ?」
いかついハゲが絡んできた。やっぱりこの格好では珍しいか
「ごめんなさい。冒険者になりたいので、どいてください」
「あ?なめてんのか?てめえこのCらんくの俺様にどけだと!?」
どうやらこのハゲはCランクらしい。周りが少し怯えている様子からして、Cランクは中々すごいらしい。
「ばうっ!!」
ケロちゃんがキレている。まあ私もキレているんだけど、目立つわけにはいかない。
「ケロちゃん、落ち着いて」
「てめえ、無視か...?いい度胸じゃねえか」
「なーに?しつこいんだけど?」
あまりにもしつこいので睨んでみることにした。
「ほお、よく見たらいい顔してんじゃねえか。おら、来いよ」
そう言って、左肩を掴もうとしてきたので避けた
治外法権か?ここは。よく見たら軍人が一人もいない。どうやら冒険者層では、冒険者の階級が全てってことらしい。
「てめえ!このアマぁ!!」
「やめろ!!」
ハゲが殴ってきそうだったが、後ろからでかい声が聞こえた。
「うるさっ!」
後ろを見ると上半身がほぼ裸で肩にマントをかけただけのような筋肉ムキムキの男が立っていた。
「悪かったね。お嬢さん。」
「ちっ」
ハゲはバツの悪そうな顔をし、踵を返していった。
「ありがと。うるさいおじさん。」
「僕はお兄さんだよ?ところで冒険者になりに来たの?」
「そうだよ。お兄さん」
おじさん呼びはさすがに失礼だったか。
「じゃあ受付まで案内するよ」
「ありがとうございます!優しい!」
「急に敬語になったな」
「いやー冒険者はみんな残念な人なのかと勘違いしてて」
「悪かったな。ここは冒険者中心の区域だから、貴族とかあんま関係ないんだ」
そんな会話をしているうちに受付についた
「いらっしゃいませ。この度はどのような件でお越しくださいましたか?」
「あ、冒険者登録をしたくて」
「かしこまりました。登録費500ガルドと、こちらの冒険者規約をよくお読みください。」
お姉さんがご丁寧に説明してくれた。500ガルドもかかるの!?
冒険者規約には図書館で読んだ内容に加えて、冒険者のランクがA~Fまであることや、冒険者ランクごとの探索可能範囲や、依頼システムについても書いてあった。
依頼システムは、一般民や軍からの依頼を冒険者が受けることができるシステムで、採取依頼、討伐依頼、探索依頼など様々な依頼が、この冒険者センターに集まってくるらしい。そしてこの依頼も冒険者ランクで制限されている。つまり、ランクが高ければ高いほど、受けることのできる依頼が増えていくということだ。
まあなんにせよ、お金を稼ぐ手段が見つかったわけだ。一石二鳥!
「利用規約読みました。冒険者登録をお願いします。」
さよなら私の500ガルド...現在400ガルドとなった。
「はい。かしこまりました。それではこちらの機械に手をかざしてください」
小さな魔導機械が置いてあり、その機械の光が出ているところに手をかざしてみた
すると光が私の手をなにやらなぞるように動き始めた。
すごい、私がいた村とは文明が違いすぎる...いや、わかってはいたけど
光で何かの読み取りが完了すると、受付の方がカードを渡してくれた。
「そちらがえっと、リツ...
「わあああああああああ!!」
「ど、どうなさいました!?」
本名を言われそうになったので思わず叫んでしまった。本名まで読み取るなんてすごすぎるよ。この機械...
「ご、ごめんなさい。家族には内緒で来てまして...名前はあまり言わないでもらってもよろしいですか?ほほほ...」
わけあり貴族を演じてみました。わざとらしい?うるさい
「そ、そうですか。では、カードの説明をさせていただきます。」
「はい。お願いします」
リツカ レベル10
戦闘スタイル:剣士(熟練度40)体術(熟練度30)
スタミナ:300
魔力:50
物理攻撃:200
物理防御:100
魔法攻撃:50
魔法防御:200
俊敏:300
反応:250
「まず、あなたの現在のレベルが...えっ!?10!?」
受付の人が驚くと、周りがざわつき始めた。えっ?高いの?低いの?
個人的には低そうだけど...だって数字なんて無限にあるんだから
「おいおい、これはすごいことだよ。」
受付に連れてってくれたお兄さんが後ろから入ってきた。
「そうなんですか?」
「うん。冒険初心者なんてみんなレベル1。たまたま身体能力が高い人で4とか5くらいのレベルになるもんさ。それを優に超えてきたんだからね。それに各能力が100を超えているものは一般男性を超えているということだよ。」
「ま、まあ、剣術の稽古とかしてたので...」
剣の熟練度が40とあるが、上限が100らしいので、かなり高いみたいだ。各能力の魔法系が50なのが辛い。
「えっと...これを含めた総合評価ランクがこちらにあって...D!?」
また周りが...すごいってことだよね?これって
「おいおい、これはすごいってもんじゃねえぞ。」
「そうなんですか?」
また後ろからお兄さんが絡んできた。
「初心者がDランクなんてありえないんだ。みんな経験も不足しているということで、Fランクから始まるんだよ。」
「へ、へー」
まるちゃんとの稽古、外で冒険した経験、ケルベロスとの戦い、ゾンビとの戦いを全て加味すると、経験には物足りるということか
「まあDランクまでは誰でも行けるんだけどね。Cに上がるのがみんな苦労するのさ。DからCに一生上がれない人もいるくらいだからね」
「ふーん。お兄さんはランク何なの?」
「お兄さんはBさ!」
少し自慢げそうだな。道理でCランクのあのハゲが引き下がったのも頷ける。
「すごーい!Bランクのお兄さん。依頼についても教えてくれると嬉しいな!」
「まっかせろ!」
Bランクのこの親切なお兄さんをナビゲーターにすることに成功した。
「ここが依頼掲示板だ。」
物凄い大きい掲示板には無数の紙が貼られていて、その紙を色んな冒険者たちが眺めている。
その中で右から黒黄赤青橙白の線引きがされていた。
「見たらわかると思うが、黒はAランク、黄色はB、赤はC、青はD、橙はE、白はFランクの依頼っといった感じだ」
「Dランクの人がFランクの依頼をやってもいいんですよね?」
「ああ、もちろんさ」
なるほど、これで冒険者についても全て理解した。
稼ぎ口が一つ見つかったのはかなりでかい!そして失った500ガルドを稼ぐためにも、ここは一つ依頼をこなしてみようじゃないか!