第四話「都市デルタ」
第四話「都市デルタ」
私たちリツカとまるちゃん、そして新しい仲間のケルベロスことケロちゃんは、ムサシの山を抜け、ふもとで野宿をしていた。
焚火をすぐさま準備し、テントも準備よく二つ用意してくれていた。ほんとにまるちゃんはエリートなんだよなあ。
「ほら、鳥だったものだよ。食べな」
「変な言い方しないで。ありがと」
まるちゃんは焼き鳥を差し出すと共に食欲がなくなることを言ってくる。こういう人は友達は少ないだろう。
「にしてもこいつを本当に連れていくつもりか?」
まるちゃんが悪態をつきながらケロちゃんを触ろうとする。
ケロちゃんはそれを避けた。人を見る目がある子だ。
「いいじゃん。翼を切っちゃったから今は使えないけどさ。大人になって飛べるようになったら、乗せてもらえるじゃん。」
ケロちゃんを抑えるために翼をしっかり切っちゃったからしばらく飛べなさそうなんだよね。ケロちゃんに申し訳なさすぎる。
「また暴れなきゃいいけどな...いてっ!」
ケロちゃんがまるちゃんの背中を叩いた。ちゃんと爪は抑えている偉い。
「ばうっ!!」
「こいつも焼きケロになりたいようだねえええ」
「ちょっと子供相手に本気にならないでよね」
まるちゃんは一息入れてまたしゃべった。
「俺が言いたいのは、こいつが明日、俺たちの動きについてこれるかって話。」
「んーたしかに」
翌日
「それじゃ出発するか」
「うん」
「ばうっ!」
2人と1匹は走り出した。
なんとケロちゃんは四足歩行も得意らしく、私たちの後ろをぴったりついてきていた。さすが神獣。
「こいつ...頭もよさそうだし使えるな...」
「ちょっと、使えるとか言わないで。仲間だから。」
こうして山を越え谷を越えた私たちは、夕日がちょうど沈んだころに都市デルタの真ん前に着くことができたのであった。
「うわ...すご」
デルタの入口付近で思わず立ち止まってしまった。
都市全体が鋼鉄の壁に覆われていて、その壁数か所に検問を兼ねた扉があった。
厳重だなあ。こうやってこのおっきな都市が守られているんだろうなあ。
「ちょ、この検問。通れないとかないよね?」
「んー?大丈夫。あっ、ワンコどうしよ」
「ワンコじゃない。ケロちゃん。」
マルちゃんが困っているのは、普通の犬ならペット登録で通せるが、神獣ケルベロスはどうみてもペットに見えない。
「ケロちゃんって翼隠せたりしないかなあ...」
「わんっ!」
ケロちゃんは返事をすると、翼がみるみる無くなっていった。
「え?何が起きた?」
「まさかじゃないけど、ケロちゃんの翼って、魔力で出来てるの?」
二人で驚いているが、ひとまず検問を抜けることにした。
こうしてやっとデルタに入ることができた。疲れた。
でも辺りを見回すと驚きの連続だった。
「うわあ...」
鉄の棒みたいなのがたくさん並べられていて、その頂点には光が灯っているものがまず見えた。あれは魔力で出来ているのだろうか。
そして床や辺りの建物全てが、レンガや鉄で出来ていて、まさしく別世界に来ているかのような光景だった。ササキサ村では木造の建物で限界だったのに。
「田舎者の顔、全開だな。勇者様。」
横でまるちゃんが二やついていた。うざい、殴っとこう。
どうやら口が開いたままだったようで、そっと閉じた。田舎者の顔だったのも、うなずける。
「で、これからどこ泊まるの?」
「俺の家に泊めるから安心しな。でも、約束してほしいことが二つある。」
「えっ泊めてもらえるの!?それで約束って...」
まるちゃんの約束とは、私とまるちゃんで、婚約者のフリをすること。デルタでの私は偽名を使い続けること。の二つらしい。後者の偽名はわかる。ササキサ村のリツカは最厄の子として、広まっているリスクを考慮してのことだろう。しかし前者のまるちゃんと婚約者のフリをするというのがさっぱりわからない。
「ねぇ。なんで婚約者のフリなの?」
「なに?本当の婚約者がよかった?」
「ちーがーう!。なんでなの!?」
「いいからいいから。こっち来なよ。きなこちゃん。」
「誰!きなこって!」
「君のこと。」
「あ、偽名か。私に決めさせてくれんのかい!」
こうしてマルベールと私、きなこはシュライゼル邸に向かった。まるちゃんのシュライゼル家は、代々軍の家系で、まるちゃんの父、ハルバーグ・シュライゼルさんはなんとデルタ軍の総司令なんだって。すご、まるちゃんってエリートっていうか、偉い人じゃん。
シュライゼル邸
もう何も言葉が出ないくらい壮大な屋敷を構えておりました。なんかすごい豪華な屋敷の周りには芝生がびっしりとあって、さらにきれいな川も流れている感じで、芝生の外には辺り全体が、柵で覆ってあり、何やら結界魔術のようなものまで見える。すごすぎる。
まるちゃんが柵の鍵を開け、私たちは芝生に足を踏み入れた。
「がうがうがう!!」
奥から大型犬が3匹走ってきた。
「おおーお前たち!元気にしてたか?」
いや明らかに私とケロちゃんを敵視してるんだけど...
この犬3匹は私たちを囲むようにして立ち止まった。
「あ、ケロちゃん...!」
ケロちゃんがイッヌ達の前で威嚇のポーズをとった
「がうっ!!」
大きさはイッヌ達より少し小さめのケロちゃんだったが、ケルベロス特有の威圧感だろうか、それを感じ取ったイッヌ達はビビって逃げていった。
「キャインキャイン!」
「すご、ケロちゃん」
「俺の犬たちに手出ししたら焼くぞ、ケロ公」
「がうっ!」
ケロちゃんはそっぽを向いた。まるちゃんはケロちゃんをもっと可愛がれよ
こうしてようやく屋敷に入ることができた。
「マルベール!今帰りました!誰かいないか!?」
まるちゃんが誰かを呼ぶと程なくして
「おやマルベール。おかえりなさい。」
「母上!今帰りました。」
貴婦人と呼ぶに相応しいほどの美しい見た目の方が現れた。この人がまるちゃんの母上らしい。
「こっちへ戻ってくると聞いてうれしかったわ。今夜は豪華ディナーを用意させてるから、たくさん食べなさい。」
「わかった。ありがとう。その前にお願いがあるんだけど...」
まるちゃんは私の身体をそっと自分に寄せるようにしながら
「俺の婚約者を今日からここに住まわせたいんだ!」
うーむ演技とはいえ、ちょっときつい。殴り飛ばしたい。
「お、お初にお目に、かかられ..ます...?きなこと...申します!」
母上は少し驚いてこう言った。
「えっ?ねえ...その子...ササキサ村の子じゃないの...?」
ぎくっ!田舎臭いのがバレたか...明らかに夫人の見る目が冷たい...
「ああ、俺が決めたんだからいいだろ!早く婚約者を決めろってうるさかったんだから!」
こ、こいつ...そんなことのために私を利用しおったなぁ...
「よ、よろしく、お願いしまーす...」
「じゃ!俺!軍の編入手続きまだだから!二人とも!後でねー!!」
マルちゃんは戦闘時のような速さで屋敷から出ていった。
ありえない。後でしばく。
「あ、あの子ったら。ほんといつも...」
夫人は困った顔をして、こちらを見ている。いやこちらも困っているんだが
「とりあえずあがって。それと...その犬は入れないでね。」
「あ、はい。ケロちゃん。芝生で遊んでて」
ケロちゃんは少し悲しそうに、芝生に走って行った。
「ごめんなさい。突然失礼なことを言って。」
「いえ。田舎者なのは、事実ですから。」
「それと、身だしなみを整えましょうか」
あ、たしかに。私は二日間くらい身体を洗っていないんだ。それにずっと走ってたからくっさいだろうなあ...
「はい。すみませんが、お願いします。」
そして、豪華なお風呂に連れていかれ、隅々まで綺麗に洗って、その後、豪華なスキンケア?っていうやつで、肌をペチペチさせられて、豪華なパジャマ?を着させられた。
「ありがとうございます。こんなにしてもらっちゃって。」
「別に大したことはしてないわ」
そしてお母さまと二人で、食事用の部屋に向かった。キャッ、お母さまって呼んじゃった!呼んでないけど
「あなた。ほんとは何しに来たの?」
やばい、なんかばれてる。女の勘は怖いね。
「ほんとに婚約の話をしに来ただけですよ?」
「ふーん」
「ただいま戻りましたー二回目!」
「まるちゃん!」
ようやく帰ってきてくれた。さすがにお母様と二人はきついぞ
そして今シェフさんが豪華すぎるディナーを持ってきてくれた。
やばい。よだれ出そう。
「とても素敵な料理ですね!」
「いやー懐かしいな!いただきます!」
「もう、マルベール!」
お母様は話したそうだったけど、まるちゃんは食べ始めた。
本当においしい。ここに永住したい。まるちゃんと結婚はちょっとだけど...
そして3人はご飯を食べ終わり、少しお話する流れになった
「で、この子と、一匹はうちで預かるの?」
「うん。おねがいしますー!」
「お、お願いします!」
「いいけど...」
お母様は私が本当の婚約者じゃないことを心配してるんだよね...
「大丈夫。きなこはササキサ村で一番かわいくて、一番強いし、父親と二人暮らしで家事をほとんどこなしていた完璧な子なんだ。これで認めてもらえる?」
めちゃくちゃだなぁ。全部間違ってはないんだけど。
「もう、いいわ。ハルさんにもちゃんと言ったんでしょうね?」
「うん、さっき報告の時に言ってきたよー。オッケーだって!」
「うっそ...」
てか軍総司令ハルバーグのことをハルさんって呼んでるんだ。さすが奥さん
「はぁ...この親子は...まあきなこさん、よろしくね」
「は、はい!よろしくお願いします!」
こうしてシュナイゼル家にしばらくお世話になることとなり、いきなり裕福な生活がやってきてしまった。なんだこの展開