男の中心でアイを叫ぶ事件⑤
トイレに出た時は既に満身創痍の状態だった。
たかがションベン、されどションベン。
かつて、尿意をこれほどに恐れたことがあっただろうか。
かつて、こんなに痛すぎて射程が定まらない立ちションがあっただろうか。
痛すぎて暴れまくりたい衝動と、便器内にちゃんと収めなくちゃならない葛藤の戦争である。
『あんた、なにしてんの!はよ包帯替えなさい。』
包帯巻き巻き君をぶら下げながら、ゲッソリと歩く息子に母は追い打ちを掛ける。
ふふ、わからんだろう。
あんたにはこの痛み、一生わからんだろうさ・・・。
リビングに入ったところで、床に座り込む。
包チンさんとニラメッコ。
ニラメッコは笑ったら負けだが、笑える要素が一個もない。
かといって、勝つ要素も一個もない。
いや、そんなことはまぁいいさ・・・。
もはや、わけのわからない悟りを開いていた。
少しめくれた包帯の端を掴み、少しずつ少しずつ剥がしていく。
剥がしていく度に、局部へと近づいていく。
それはまるで、刺さった針を一本ずつ抜いていくかのような作業だった。
何度もため息を吐きながら、小休止し、また覚悟ともにめくり始める。
『あぁ、もう!そんなゆっくりやってホンマ!!
サッとやってパッと替えたらいいやないの!!!』
あまりに焦れったすぎる行動に母が苛つき始めた。
『そんなん言うたかて、痛いもんは痛いんや。』
『あんた男やろ。我慢しなさい。』
男やからこそメッサ痛いんじゃボケ!!
もはや半泣きである。
『どうせ痛いなら一瞬の方がいいやろ。
ちょ!!あんた貸してみ!!!』
ソレは一瞬の出来事だった。
一体何が起こってるのかすら、わからなかった。
母は包帯を奪い取り、まるでベーゴマを回すようにそれをグン!!と引っ張りあげた。
ベララララァァァァ!!!
ヘリコプターのように超マッハで回るそれが見える。
ハギャアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!
包帯がバッチンと取れても、まだ余韻を残すように回り続けていた。
GYABAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!
『・・・・ほれみぃ、一瞬やろ。』
一仕事終えたような顔で言い放つ母。
床には一つ、死体が転がっていた。
母の言う通り、一瞬で身動き一つできない息子が完成した。
それは空を飛ぶことはできないが、意識を飛ばす事ができるオカンの必殺技。
人間ヘリコプター・・・・。
嘘やろ・・・・。
ちょ、あんたマジか。
我が母ながら、息子の息子の荒使い加減が半端無さすぎる。
普通、もっと丁重に扱わないか?もっと、患部を大事大事にしてあげないか?
誰も見たこと無いぞ、あんな高速回転する息子。
もし、ションベンする前だったら、完全に人間スプリンクラーになっていた事だろう。
泣いた。
完全に号泣である。
『男やろ!!!泣きなさんな!!』
鬼畜。
なんという鬼畜ぶりだろう。
泣かしたのは誰だろう。
むしろ、これは男だから泣くんだよ・・・・。
初めて丸裸にされたそれが体の真ん中で横たわっていた。
あぁ、本当に皮はなくなったんだ。
痛々しいまでに、新しい血が次々と流れている。
『ほら!!!新しい包帯もつけたげるからはよ起きなさい!!!』
戦士に休息は許されない。
次の日から、ウジウジと包帯を替える度にすぐさま母が飛びかかり、
自分でやるから!!あたしがやったるわ!!!というわけのわからない攻防戦が続いた。