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マイルズから来た最初の手紙は、縁談を申し込んだ事から始まり、頑張って口説くつもりだなんて書かれた後に滔々と褒め言葉と口説き文句を連ね、最後の方に、聖剣の為注目されている事、王宮の沢山の人に知られてしまったが応援されている事、便箋を半分使ったのでまた一緒に買いに行きたい事がまとめて書いてあった。注目されている事と応援されている事あたりで少し字が小さく書いてあって、思わず笑ってしまった。
その後手紙を一往復した後に一緒に便箋を買いに行った。あの日便箋を売っていた男性は店を持っていたので、マイルズが紙代を出資して、いい質の便箋を作ってもらっていたらしい。デザインも気に入ったので、全て買って更に応援する事にした。
その後文通と逢瀬を繰り返して3回目に求婚され、正式に婚約を結んだ。
二人で相談して、結婚してもまずは働きたいという話になり、侍女の試験を受けて、卒業後は王宮で働く事になった。
何度か説明会があり、その度に上司や先輩予定の人々が変装していて話しかけてくるのだが、同期の振りをされた時はどうすれば良いか、とマイルズに相談したら、誰が何に変装していたか全部書き出すように言われた。そのリストに帰り道で見かけたお忍びの第五王子まで書いたら、どうやら護衛さえ撒いていた時間だったようで、マイルズを通じて騎士団、近衛から感謝された。その後の実地での勉強は、お茶の淹れ方などではなく、ひたすら王宮の人の顔を覚えさせられることになった。
マイルズの身の上をじっくり聞いたり、ニコラスがどんな人だったかを聞いたりもした。ニコラスについては驚きもしたが、正直なところほとんど関心もなくなっていたので、新聞を見るのと同程度の感想でしかなかった。
卒業式を迎えた日、マイルズも来てくれた。在校生は卒業生の関係者でない限りは出席出来ない事になっているが、1年休学したメアリーも特別枠として参加出来たらしく、家族席の中に座っていた。
式が終わり、自分の家族とマイルズに囲まれて帰ろうとしたその時、メアリーに声を掛けられた。
「おめでとう、ハリエット。久しぶりね、元気にしていた?」
「ありがとう、元気よ。ごめんなさい、家でもパーティーがあるから今から帰る所なの」
以前と違い、冷たい態度をとった私にメアリーはいらついたようだった。
「何よ、私に貧乏くじを押し付けて、自分だけ幸せになったからって逃げるつもり?貴女、マイルズお兄様と婚約したんでしょ!?義妹の私を助けてくれたっていいじゃない!せめてマイルズお兄様との連絡ぐらい繋ぎなさいよ!」
目の前にマイルズが居るというのに、連絡を繋ぐも何もないだろうに。そう思いながら私は口を開いた。
「私が押し付けたんじゃなくて、貴女達が勝手にくっついたんじゃない。それに、そもそも貴女達クレイトン伯爵一家は、マイルズに絶縁された上にその関係者を含んだ範囲への接近禁止命令が出ているでしょう?貴女はマイルズを兄と呼んでいい立場でもないし、私がマイルズの婚約者だと知っているなら声をかける事は禁止されていたはずよ。ここには沢山証人もいらっしゃるから、訴えて罰金を支払っていただきますわね」
罰金の話を持ち出せば、メアリーは急に青ざめて逃げるように去っていった。クレイトン伯爵は既に何度か罰金を払わされているし、ニコラスの父は次があれば、卒業後は領地から出さないと決めているらしい。今回でそれが決定事項となるだろう。
「結局こんな近くで見ていても気付かなかったな。ハリエットが婚約者とまで知っていたのに」
「貴方を見つけるのは私だけでいいのよ。さぁ、帰りましょう」
マイルズはハリエットの小さな独占欲が嬉しかったらしく、幸せそうにハリエットをエスコートして歩いていった。
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