それから
デイビッドは夜中にふと目覚め、ベッドを抜け出してカーテンを開けた。
月明かりの中、眠る妻の顔を眺める。
「私を貴方のお嫁さんにして!」
と抱きついてきた幼い少女だった頃から見違えるほど美しくなったこの年若い妻を、ただ一人の女性として愛するようになってどれくらい経つだろう。
いや、本当はあの頃から自分には妻しかいなかったのかもしれない。
優秀な姉の陰に隠れているようで、実はのびのびと自分らしく過ごしていた少女の相手を戸惑いながらもしているうちに、実家の惨状に鬱々としていた気持ちが少しずつ晴れていくようだった。
家族思いの幼い少女が、本当の妹であればどんなに幸せだろうと本気で思っていた。
母親はデイビッドが幼い頃に伯爵家にも夫にも見切りをつけて家を出た。
デイビッドを連れて行く気もなかったようだ。
それからは益々意気消沈した父親からも見捨てられたように過ごした。
弟か妹でもいれば少しは違っていたかもしれない。そうであれば淋しさを紛らわせることもでき、自分の境遇を嘆くだけでなく、守るべきものの事を考えるという崇高な目的を得られたかもしれないのにと考えていた幼い頃のことを少女と過ごすうちに思い出した。
だが、そうでなくて良かった。
本来なら手の届かないところにいたはずの彼女を手にした奇跡。
公爵はエリーのために非の打ち所のない縁談を用意できただろう。何れは王妃になるエリーの姉も彼女のために素晴らしい男性を紹介することができた。
エリーは再建したとはいえ、辺鄙な領地に籠もるような暮らしをわざわざする必要はなかったのだ。
だが、彼女はここにいる。
デイビッドはそっと眠る妻の頬にキスをした。
すると目を開けそうになったエリーの腕がデイビッドの体を探すように動いた。
慌てて彼女を抱きしめようとベッドに入るとあの日のようにエリーが抱きついてくる。
その温もりに満たされながら、デイビッドは今度こそ深い眠りについた。