物語の終焉
物語では王子と令嬢は完璧なエンディングを迎えていたが、この現実の中ではそう何もかも彼らの都合の良いようには運ばなかったということなのだろう。
王子と姉は予定通り結婚して、王子は王太子になった。令嬢は姉が王太子の子を二人産んだ後に公妾となることが前提で、ある伯爵家の嫡男に嫁ぐことになる。
これはラブストーリーの完全な結末とは言い難い。
まあ、その伯爵家の嫡男というのが実は姉の思い人で、彼は令嬢とは白い結婚を貫くことになっているというから耐え難い結末だということもないけれど。
しかも、姉が王太子の子を産んだ後に、彼は姉との間に後継者を作ることができることになっていて、その子は表向きは令嬢の子とされるということは令嬢には知らされていないという。
姉に言わせれば必要のないことは言わないそうだ。
令嬢は公妾の地位を得るまでにも、姉の采配をうけて愛する王太子と人目につかない場所で会うことや手紙のやり取りなどはできるし伯爵家では王太子の愛人を手厚くもてなすことになっている。十分じゃないかと姉は言ったが私もそう思った。
また、王太子は令嬢を正式な妻とは呼べないが、姉と公爵家のお陰で異母兄弟である第一王子を蹴落として王太子の地位を得ただけでなく、数年たてば誰にも邪魔されることなく存分に令嬢のことだけを愛することができるのだ。
めでたしめでたし、だと思う。
しかし、私はこの現実の中で見知ったヒロインの子爵令嬢のことがよく理解できなかった。
王子と令嬢は一度は別れる決意でいたのだという。心では愛し合ったまま別の道をいく、と一応はそういうことで王子は姉との婚姻に踏み切るはずだったと。
それならば最初から親しい仲になる前に諦めていれば良かったのでは? と私は思った。
デイビッドは私がプロポーズをした時にその覚悟をしてくれたのだと思う。
人の心は思い通りにはならないから、例え一人の人に永遠を誓ったとしても別の心惹かれる人が現れないとは限らない。
しかし、その気持ちを理性で抑えることをしないのならば、約束に意味はないのではないだろうか。
もちろん、理性で抑えられた恋心があることが相手にとっては裏切りであることは間違いないわけだけれど、でも、なんの努力もせずに流されていいということにはならないというのが私の考えだった。
だから王子のような人は最初から信用できない人だということになる。
また、私には令嬢が善良な人か、というと元からその部分は首を傾げてしまうところがあった。
善良な人ならば婚約者がいる人だとわかった時点で王子のことを諦めるだろうからだ。心は残したままで良い。恋する気持ちまで失くせと言ってるわけではなく、姉がしたように恋心を相手にすら見せないでいられるようにもっと努力すべきだったのではないか?
結果的に令嬢は王子からの愛だけを頼りに生きていく道を選んだわけだが、元から彼女にはそれしかなかったのだから彼女にはそれについてとやかく言う筋合いはないだろう。ずっとそうしていられるならば彼女にとって喜ばしいことだと思う。
だけど、悪女という言葉は私や姉よりもあの令嬢にこそふさわしいのではないかと、物語を終えた私はそんなふうに思うのだった。
なにはともあれ、物語は収まるべきところに収まった。これからの私は宣言通りにデイビッドに私のことを愛して貰うために全力を尽くそうと思う。
きっと、物語の時のようにはならないはずだ。今日からこれは私にとっては、私とデイビッドの恋の物語になるのだから。