王子は姉と政略結婚することになりました
おかしい。そんなはずはないのに。この世界はヒロインとヒーローのための世界じゃなかったの???
悪役だったはずの私が戦線を離脱した後、姉が座った王子の婚約者の座が脅かされることは最後までなかった。
本当なら王子の愛する令嬢の存在を知った物語のエリーが行う苛めやなにかに業を煮やした王子やその側近達が、エリーの悪事を晒さないことを条件に婚約を解消にもっていくだけでなく、本来ならば妃になれるはずもない子爵家の令嬢であるヒロインの後見を公爵家にさせることでハッピーエンドを迎えるはずだった。
だが、姉は王子の恋愛沙汰には全く興味を示さなかったものだから王子の側はなすすべなく婚約関係を維持することしかできなかった。
それだけではない。全く非のない姉に対して、不貞を働いた王子。公爵家の後ろ盾を目当てにあちらから強く申し出た婚約を蔑ろにした王子のほうが分が悪くなっていたのだ。
私はそのことに少し胸がすくような思いを感じたが、同時に、このままでは姉は他の女に現を抜かす王子の妻になるしかなくなったと頭を抱えた。
罪悪感を抱きながらも、結果的には姉と王子の婚約は解消されるのだからという甘い見通しを持っていたのだと後悔しても遅い。
「お姉様、今ならまだ間に合うわ。どうにかして王子との婚約を解消に持ち込みましょう」
そう言った私に、しかし、姉は驚くべき決意を打ち明けたのだった。
姉は王子の有責事項を盾に婚約を解消に持ち込み、愛する人に嫁ぐ道筋を考えていると言った。
難しいことだが、姉ならばそのように上手く持ち込めないことはないだろうとは思ったが、私はどこか姉自身が自分の言葉に満足していないのではないかという気がした。
だから、あえて言ったのだ。
姉はもう公爵家の実質的な跡取りという立場には戻れず、王妃になることもできない。誰よりもそうであることが相応しい人なのに、それらをすべて諦めていいのかという思いが私にその言葉を言わせたのだと思う。
「お姉様はもっと貪欲になるべきです。遠慮なんてせずにすべてを手に入れれば良いだけ。
悪い女になればいい。
まわりの連中は皆、勝手に自分の都合ばかりお姉様に押し付けているのですから、お姉様もそうして何が悪いというのでしょう。
誰にも文句なんて言わせなければいいのです。そして望みのものをすべてその手に。
きっと、お姉様ならできますわ」
すると、姉は初め私の言葉に驚いたように目を丸くしていたが、やがて声を立てて笑い出した。
「わたくし、前にもこんなふうに貴女に言われたことをずっと忘れなかったわ。いつか何かどうしても諦められないものができたら私の意見を聞きに来て、と貴女はまだ幼い頃に言ってくれたわよね。
そして貴女はわたくしの前で自分の諦められない事のために頑張っている姿を見せてくれた。
だから、わたくしは王子殿下の婚約者の義務として誰にも言わなかったし、悟らせはしなかったけれどわたくしにも本当にそう思える人がいるのだと、その人のことを諦めたくないのだと考えた時、やれるだけのことをやってみようと思えたのだと思うの。でも、それだけじゃ足りなかったのね。
そうよ、わたくしは自分のために是非とも悪い女になってすべてを手にするわ、と言うべきだったのよね」
そう言って、姉は消極的な方法ではなく積極的に自分の利益を守る計画を立て始めた。
そして、姉は誰もが納得する方法で未来を勝ち取ったのだった。